抗生物質が不要な病気に抗生物質を使用することで重症化は防げるのか?

「風邪に抗生物質は効果がない」ことは、すでに常識となってきているでしょうか?

私が薬剤師になったころには、風邪に抗生物質はバンバン処方されていました。

薬剤師の先輩にも「病院行って抗生物質処方してもらったら?」とか、医師に「抗生物質いる?」と言われるような時代でした(私の周りだけかもしれませんが)。

 

今でも風邪と診断された方に抗生物質が処方されていることはあります。

もしかしたら、患者さんには風邪と伝えているけど、実際は抗生物質が必要な溶連菌などの病気だと診断しているケースもあるのかもしれません(意図はわかりかねますが)。

 

少なくとも、自己判断で抗生物質を使うことはおすすめできません。

抗生物質が必要ないとされる病気に抗生物質を使うことのベネフィットとリスクについて考えていきたいと思います。

抗生物質が不要な病気に抗生物質を使用することのベネフィットは?

「今の病気には効果が無いけど、悪化したら困るから抗生物質が必要」と耳にすることはあります。

正直なところ、薬剤師の立場では患者さんの症状についてははっきりとしたことが言えません。

 

「風邪」という一言にも様々な意味合いが込められていることもあります。

検査結果どころか、どんな検査をしたのかも患者さんからの口頭での情報しか得られない薬局ではなかなか口を出せません。

 

個別の判断は出来ませんが、基本的に、風邪などの場合に抗生物質を使うことのベネフィットは少ないでしょう。

以下の報告は、抗生物質が不要とされる気道感染症(中耳炎、のどの痛み、上気道炎、気管支炎)に抗生物質を使用することで、重症化を減らせたかを検討しています。
Protective effect of antibiotics against serious complications of common respiratory tract infections: retrospective cohort study with the UK General Practice Research Database.

 

データは336万件あり非常に規模は大きいですが、後ろ向き研究(過去のデータを調べている:データが不足しているなどの問題もおきやすい)です。

重症化の定義としては、中耳炎は乳様突起炎、のどの痛みは扁桃腺炎、上気道炎と気管支炎の場合は肺炎と設定されています。

 

中耳炎、のどの痛み、上気道炎(風邪)に抗生物質を使うことで、重症化を予防できるという結果が出ていますが、1人の重症化を予防するために、必要な人数は4000人以上という結論です。

そもそも重症化しにくい病気ばかりではありますが、「4000人に抗生物質を使って1人だけ重症化を防げる」のであれば、私なら使いたくはありません。

この報告の結論としても、重症化予防での使用は正当性がないとされています。

 

気管支炎に関しては、1人の重症化を予防するために必要な人数は100人ほど、さらに65歳以上に限れば39人という結論です。

「何人以下なら適切なのか」の判断は大変難しいです。

この報告の結論としては、「高リスク群に絞れば抗生物質は有効であると考えられる」とされています。

 

抗生物質を必要としない病気を対象としているので、当然の結果と言えますが、抗生物質を使用することによるベネフィットはほとんど期待できないようです。

抗生物質が不要な病気に抗生物質を使用することで考えられるリスク

抗生物質を使うことで、副作用が出ることは当然考えなければいけません。

抗生物質の種類によって、起こりやすい副作用は異なりますが、下痢は10%程度で起きてもおかしくないですし、発疹も起こりえます。

報告数は少ないですが、アナフィラキシー(全身のアレルギー反応)の可能性もあります。

子どもにピボキシル基を含む抗生物質を使う場合は、低血糖のリスクも考えなければなりません。

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抗生物質の使用で4000人に1人重症化は防げるかもしれませんが、副作用が出るのは4000人に400人ぐらいになるかもしれません。

コクランの以下の報告でも、成人にはプラセボ(偽薬)よりも抗生物質のほうが有害事象の危険性が有意に高かったとされています。
Antibiotics for the common cold and acute purulent rhinitis.

 

また、耐性菌のことも考えなければなりません。

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必要な抗生物質をを使うことで起こる軽度な副作用なら納得も出来ますが、不要な抗生物質による副作用は個人的には納得しかねます。

【最後に】抗生物質は適切に使いましょう

抗生物質が不要とされる病気に対して、抗生物質を使うことのベネフィットとリスクトを紹介しました。

「抗生物質が不要とされる病気かどうか」は医師に診断してもらうしかありません。

「ちょっと風邪っぽいので前にもらった抗生物質を飲もう」などの自己判断は副作用などのリスクを増やすだけでなく、診察時に病気の原因をわかりにくくしてしまう可能性もあるのでご注意ください。