うちの子は「大きくなったらお父さんのお仕事のお手伝いをする!」と言ってくれています。
父親として素直に嬉しい一方で、よっぽど薬剤師の仕事にやる気がない限りは、応援しにくい気持ちもあります。
先に否定しておきますが、私は【薬剤師】の仕事をつまらないと思っているわけでも、要らないと思っているわけでもありません。
一部AIに取って代わられる職でもあるとは思っていますが、全てがそう簡単にAIに奪われるような職ではないと信じています。
【薬剤師】はとても大切な仕事を担っていると考えています。
それでも、自分の子どもにあえて薬剤師をすすめる気にはなりません。
※「薬剤師にならないほうが良い」と言ってるわけではありません。
もちろん、子どもが正しく現状を理解した上でもなりたいという気持ちがあれば全力で応援します。
少し文字数が多くなりましたので、目次から気になるところだけ読んでもらえば良いと思います。
薬剤師とは何をする職業ですか?
薬剤師法 第一章 総則に、薬剤師の任務として、以下のように記されています。
薬剤師は、公衆衛生を向上・増進させることで、国民の健康な生活を確保することが仕事です。
調剤・ドラッグストア・公務員・その他の職業含め、薬剤師として働く以上、絶対に忘れてはならないことだと考えています。
薬剤師になるには薬学部を卒業して国家試験に合格する
薬剤師は国家資格です。
大学の薬学部(6年制)を卒業して、薬剤師国家試験に合格すると薬剤師免許が交付されます。
現状では、薬剤師免許は更新制ではありません。
つまり、一度免許を取ってしまえば、薬剤師とは無関係な仕事をしていても生涯薬剤師です。
免許取得後30年間自宅で引きこもっていても薬剤師免許は有効です。
つまり、薬剤師は【薬剤師免許を取ったときにはそれなりの知識があった人】ということしか保証されていません。
医療に関する知識は日々変わっていきます。
現在の知識に関しては自身が適切な学習を続けているかどうかで決まります。
国民の健康な生活を確保するためにも、薬剤師は働き続ける限り、学習が必要だと考えます。
薬学部の選び方について【偏差値・学費・国家試験の合格率など】
薬学部の偏差値と学費
数値に関しては、2018年末時点のこちらのサイトを参考にしています。
薬学部の偏差値
薬学部の偏差値は35~75と幅広いです。
少なくとも「薬剤師=高学歴」や「薬剤師=頭がいい」とは言えないでしょう。
大学の偏差値は国公立大学が高く、私立大学が低いことが多いです。
慶應義塾大学や東京理科大学など、一部の私立大学には、地方の国立薬学部より偏差値が高いところもあります。
薬学部の学費
学費は、国立大学≦公立大学<私立大学の順に高くなっていきます。
入学金+学費は6年間で、350万~1400万円ぐらいの幅です。
それ以外にも教材費や研修費など色々かかりますし、留年すればするだけコストは増えます。
薬剤師国家試験の合格率について
薬剤師の国家試験の合格率は第103回(2018年)で、70.58%です。
6年制新卒に限れば、84.8%が合格しています。
参考:試験回次別合格者数の推移
合格率は一見低くないですが、これにはカラクリがあり、中~低偏差値の大学を中心に一定基準の学力がないと卒業できないような仕組みにされています。
その結果合格率が上がっていると思っておいたほうが良いと思います。
それもふまえて大学を選んでいきましょう。
大学の選び方【国家試験合格率は参考にならないかもしれません】
基本的には行きたい大学に行けば良いです。
家から通える私立大学の方が、一人暮らしで地方の国公立大学に行くよりはトータルでは安く済むかもしれません。
ただし、研究職に就きたい場合、興味のある分野に強い大学を選ぶのも大切なポイントです。
国家試験の合格率も大学選びのの基準になるかもしれませんが、国家試験の合格率だけで判断するのは危険かもしれません。
大学別薬剤師国家試験の合格率は厚労省のホームページで確認できます。
新卒のデータを参考に話を進めます。
偏差値が高い大学ほど勉強ができる学生が揃っているので、合格率が高い傾向だと考えたくなるところですが実際はそうでもありません。
大学の偏差値と国家試験合格率が比例しないのはなんで?
偏差値が高い大学ほど、卒業後に薬剤師免許を使用しない仕事をする傾向があります。
例えば製薬メーカーの研究職や、大学にそのまま残って研究を続ける場合などです。
薬剤師免許は必要ないのでそもそも受験をしない人もいますし、せっかくだからと記念受験の人もいます(私の知人にも数名いました)。
偏差値が高い大学は出願者数と受験者数にはほとんど差がありませんが、偏差値は低いけど合格率が高い大学の場合、出願数と受験者数の乖離が大きい大学が目立ちます。
何らかの理由で、出願をしたけど国家試験が受けれなかったと言うことです。
一部の私立大学では、国家試験を受けるための厳しい卒業試験があることが大きな要因だと思います。
薬学部の卒業試験とストレート合格率
一部の私立大学の薬学部には卒業試験(1回~数回)があります。
薬剤師国家試験は、所定の薬学部を卒業できていなければ受験できません。
卒業試験をクリア出来なければ、当然卒業も出来ないので、国家試験の受験も出来ません。
そして、この卒業試験をクリアできるのがかなり少数になる大学もあります。
厳しい卒業試験がある理由として、大学側としては色々な言い分はあると思いますが、【見かけの合格率を上げたい】という理由が一番だと思います。
大学のパンフレットに「当大学の薬剤師国家試験の合格率は10%です。」と書かれていたら、この大学はやめようと思いますよね?
一方で「薬剤師国家試験の合格率が90%です。」と言われたらどうでしょう?
「厳しいかもしれないけど、しっかり勉強できる体勢が出来ている大学だ。」とは思いませんか?
このように大学側からすれば、合格率は受験生やその親に向けての大きなアピールポイントになります。
大学だって慈善事業ではないので、受験してくれる人数や、合格させる人数はある程度多くなければ経営できません。
※合格させた以上、一生懸命合格させようとしてくれるとは思います。
偏差値35~75の薬学部から同じ薬剤師国家試験を目指す以上、偏差値が低い大学からでは勉強が大変になることは当たり前です。
「入学は簡単なのに薬剤師国家試験合格率が高い夢のような大学」に見えていても、「卒業がとても難しい」という点には気づきにくいかもしれません。
また、卒業試験の有無とは別に、大学の留年割合や、ストレート合格率なども調べておいた方が良いでしょう。
なお、厚生労働省の資料で私立大学のストレート合格率が公表されています。
この資料によると、私立大学全体の薬剤師国家試験ストレート合格率は6割を切っており、中には2割以下の大学もあります。
この資料を見てどのように考えるかは人それぞれだと思いますが、ストレート合格率を知らずに入学して、「こんなはずじゃなかった」と思われないことを願います。
薬剤師になれば出身大学は関係ありません。
薬剤師免許を取得してしまえば、薬剤師としての実力での評価になります。
出身大学での差別を受けることはあまり無いでしょう(派閥があるところもあります)。
そのため、大学受験時には学力が低くても、何がなんでもストレートで薬剤師になるという強い意志を持った人にとっては、低偏差値で入れる大学があるのは悪いことではないと思います。
数年間浪人して国公立の大学に入った場合、浪人費用もかかりますし、働ける年数にも差が出るので、トータルコストで考えると私立のほうが安上がりのケースもありそうです。
薬剤師はどんなところで働ける?
薬剤師の就職先はどのようなものがあるのか見てみましょう。
知人の意見なども交えていますが、基本的に私の主観になります。
こちらは薬剤師の間でも人気の高い、病院薬剤師を主人公にしたマンガです。
現在の薬剤師についての参考になると思います。
それぞれ記事を折りたたんでいます。
気になる職場だけクリックしてご覧ください。
病院勤務→気になる方はクリック
- 入院患者さん用の薬を調剤することがメインの仕事と言えるでしょう。
新たに入院された患者さんの場合、薬を持参してくることも多いです。
その場合に、持参薬のチェックも仕事の一つです。
点滴薬や抗がん剤などの調整も日々の仕事です。処方箋を発行していない病院の場合は、外来患者さん分の調剤もあります。
病棟で患者さんと接する業務なども増えてきていますが、病院による差が大きいです。給与面はあまり良くありません。
それでも、他の職場では経験できないことも多く、求人倍率も薬局やドラックストアとは段違いに高いです。病院の規模によっては、当直もあります。
薬局やドラッグストアよりも、就職場所による違いが大きいと言えます。
調剤薬局など→気になる方はクリック
- 調剤薬局や調剤薬局併設のドラッグストアに加え、最近ではコンビニやカフェに併設している薬局も増えました。
処方箋を受け付けて、調剤をすることがメインの仕事と言えるでしょう。
多くの場合、患者さんへ渡す薬をチェックする最後の砦となります。
仮に医師がミスをしていたとしても、薬局で止めることができれば医療被害は防げます。良く薬を揃えるだけの簡単な仕事と揶揄されますが、そんな事はありません。
数日働けばわかることがいっぱいありますよ。最近では、往診の医師と同行して患者宅や施設に行くことも増えました。
薬局の外での仕事はこれからもどんどん増えていくと思います。給与面は他と比較すると良いですが、昇給率が低い傾向があります。
日祝は休みのところが多いですが、24時間電話対応をしている薬局も珍しくありません。
ドラッグストア→気になる方はクリック
- 調剤をしていないドラッグストアに薬剤師がいることは少なくなりました。
登録販売者制度が始まるまでは、全てのドラッグストアに薬剤師がいる制度になっていました。
お客さんの健康相談に乗ることがメインの仕事になると思いますが、レジなどの仕事も当然あります。
市販薬や健康食品を含め、たくさんの知識をつけることが出来ます。
「ドラッグストアなんて…」という人もいますが、薬局や病院では学べないことがたくさんあります。給与は比較的高いです。
労働環境としては、営業時間が長い、土日祝に休みを取りにくいなどの問題もありますが、多くのドラッグストアは一部上場企業です。
福利厚生などは整っていますし、サービス残業三昧みたいなことは比較的少ないかもしれません。
公務員→気になる方はクリック
- 国の研究機関、厚労省、都道府県庁、市役所、保健所などの選択肢があります。
採用人数が少ないので、空きが出るまで増員の募集はありません。
狙ったところに入るのは少し難易度が高いかもしれません。
希望も聞いてもらえるとも聞きますが、病院から保健所へ移動になるようなこともあります。
研究職・製薬会社MR・治験コーディネーターなど→気になる方はクリック
- 薬剤師免許は必ずしも必要ではありません。
新薬の開発に携わりたい場合、研究に弱い大学の薬学部に入るよりも、研究に強い大学の理学部に入るなどの選択肢の方が良いかもしれません。
そのあたりは、大学進学前にしっかりと調べておきましょう。
薬剤師免許を持っているからと言って、薬剤師免許を使わなければいけないわけではありません。
私にも薬剤師として働いていない知人は何人もいます(研究職が多いですが)。
薬剤師に必要なスキルは?
研究職や製薬会社のMRなどは薬剤師免許が必要ないので、薬剤師免許を使って働く場合に限って考えます。
これもそれぞれ内容を折りたたんでいます。
気になるスキルだけクリックしてご覧ください。
コミュニケーション能力→気になる方はクリック
- 薬剤師の免許を使って仕事をする場合、そのほとんどは対人業務になります。
それも、一言二言会話するだけではなく、その人がちゃんと薬を飲めているのか、飲めない薬の形はないかなど、色々確認していく必要があります。
そして患者さん毎に対応方法は変わってきます。
どうしても杓子定規な対応では解決できない問題があります。
どれだけ患者さんとコミュニケーションを取れるかで、仕事の出来は大きく変わってきます。薬局や病院の調剤室などの狭い環境で働くことが多いです。
そう多くない人数の同僚と、狭い空間で毎日何度も顔を合わせて仕事をします。
コミュニケーションが取れないとどんどん居場所を失ってしまう可能性があります。また、薬剤師の働く職場では女性比率が高いところが多いです。
男性が薬局に勤めた場合、【自分以外は全員女性スタッフ】というところも珍しくありません。男性薬剤師は良い距離感を保つようにしたいですね。
薬や医療を生涯学習する覚悟→気になる方はクリック
- 薬剤師は生涯勉強が必要です。
薬剤師国家試験に合格しても、現場で即戦力というわけにはいきません。
まだまだ知らない知識のほうが多いでしょう。
少なくとも、私はそうでした。薬剤師国家試験への合格して、やっと生涯学習のスタートラインに立てると考えましょう。
知識のアップデートを怠ると、どんどん周りに置いていかれます。
働き初めて5年後には大きな差となります。これからも薬剤師として働き続けるのであれば学び続けましょう。
計算能力→気になる方はクリック
- 腎機能を推測して適正量を計算、小児量を体重から計算、などなど計算することがたくさんあります。
電卓使えば良いだけの話ですが、計算が苦手だとストレスが貯まるかもしれません。処方箋に書かれている量が適正量10倍や0.1倍という経験は何度もあります。
ちょっとしたミスで大きな健康被害を与えかねない仕事だと認識しましょう。
実際に計算を間違えて、本来の10倍量の薬を子どもに調剤したという例もあります。
その他に、注意力や集中力なども大切ですが、先に挙げたものよりは優先順位は落ちると私は考えています。
薬剤師の年収は?学費の元が取れる?
薬剤師の年収データは検索すれば色々出てきますが、現実にそぐわない分類の仕方をしているデータが多いのでご注意ください。
平成28年の厚生労働省発表の資料によれば、薬剤師の平均年収は平均年齢37.4歳で514.9万円となっています。
一般的な大学・大学院卒の平均年収と比較すると高い年収です。
ただし、薬学部は卒業に6年かかるため、働ける年齢は通常の大学卒と比べて2年短くなります。
薬剤師は基本的に力仕事ではないので、定年後も比較的働きやすいとはいえるでしょう。
ただし、ひとつの見逃しが人の健康を損なう可能性がある仕事なので、集中力は必須です。
また、老眼になると色々と辛くなります(これはいずれ機械化されて解決すると思います)。
薬局やドラッグストアなどは、薬剤師は初任給は高いですが昇給率も高くありませんし、ボーナスも基本給ベースなのでそんなに多くありません。
余程出世しない限りは、大手の年収は700万ぐらいで頭打ちではないでしょうか?
60歳まで雇われて働くとしたら、生涯年収はざっと2億円を超えるぐらいで2億5000万円に届く人は少ないと思います。
6年間大学に行って国家資格をもっているわりには安いと感じませんか?
4年の大学に比べて最低でも2年間は追加で授業料が必要で、大学によっては卒業試験でなかなか卒業できず、国家試験に合格した上で初めて薬剤師として働けて、さらに働き始めが2年間遅くなります。
やりがいなどを無視してコストパフォーマンスだけで考えた場合、国公立の薬学部に入れる学力を持った人ならもっと平均年収の高い企業に就職できるでしょう。
また、私立の薬学部は学費が高いことで有名です。
私立大学薬学部の場合、4年で卒業できる国公立大学よりも1000万以上学費が高くなるところもあります。
薬剤師パートの求人は高時給のものも多いですし、しばらく現場から離れていても再就職しやすい環境でもあります。
それでも、1000万円の学費差を埋めるほどの金銭的メリットがあるかは疑問です。
また、国公立の薬学部へ入学出来る人なら、薬剤師の生涯年収を大幅に上回るような企業に入社することも可能でしょう。
以上により、薬剤師の年収は低くはありませんが、お金目当ての選択としてはイマイチ、むしろ悪手だと考えています。
もちろん薬剤師にはやりがいもありますので、「薬剤師として世に貢献したい!!」という方は是非薬剤師になってほしいと思います。
薬剤師の将来性【職域の拡大とAI】
今から薬学部に入る人の場合、働き始めるのは6年以上先になります。
6年後がどうなっているのかはわかりません。
調剤の院内回帰、Amazon薬局などによって在宅で薬を受け取れるようになる、などなど色々な未来が推測されています。
全体的には明るくない未来が予想されていると言っても良いでしょう。
ただし、世界に目を向けると、例えばアメリカなどでは、研修を受けた薬剤師が予防接種をしています。
日本で薬剤師が予防接種をする未来が来るのかはわかりませんが、「薬剤師を有効活用しよう」という流れが出来てくれば変わってくるかもしれません。
本気で医療に取り組みたい方は、医師を目指した方が良いと考えます。
薬剤師はとても重要な仕事をしてはいますが、ほとんどの場合、最終決定権は医師にあります。
薬剤師に出来ることはどうしても限られていると実感しています。
AIの発展で職がなくなるという話題もありますが、どんな職業でもその可能性はあるでしょう。
少なくとも、全てがAIに置き換わるのはまだまだ先だと思っています。
本当の意味で便利になるのであれば、早くAIが発達して欲しいと思います。
私には未来のことはわかりませんが、薬剤師以外の事も含めて少し考えてみると良いかもしれません。
子どもを薬剤師にさせたい?ならないほうが良いとは言わないが…
将来のことも考えると、あえて薬剤師を薦めようとは思いません。
主な理由は以下の3つです。
・薬剤師は生涯年収が高くありません。優良企業を狙ったほうが年収は高くなるでしょう。
・海外のように、薬剤師の職能が拡大されて予防接種などの仕事をするようにならなければ、あまり明るい未来は感じません。
・本気で医療に取り組みたいのであれば医師の方が良いと思います。薬剤師は医師へ意見を挙げれますが、出来ることは限られています。
最初の方でも言いましたが、私個人の考えとしては、薬剤師はとても大切な仕事を担っていると考えています。
ただ、子どもにあえて薦めるかというと、どうしてもそうは思えません。
薬剤師にならないほうが良いとは思いませんが、コストパフォーマンスに優れた職業でもありませんし、特別な思い入れなどがない限り、そこまでおすすめする理由がありません。
私が今高校3年生だとしたら、違う道を選ぶかもしれません。
もちろん、薬剤師になりたい気持ちを否定するつもりもありません。
色々と理解した上で、子どもが「薬剤師になりたい!」と言えば、全力で応援します。
どんな職業も、会社も良いことばかりでは無いと思います。
子どもには、本当にやりたいことを仕事にしてもらいたいと思います。