1回飲むだけでインフルエンザ治療が終わるという簡便さもあり、ゾフルーザは発売初年度から全国的にかなり使用されていました。
しかし、「ゾフルーザはもっと慎重に使用すべきだ」という意見も多く、医療関係者の中でも意見は分かれています。
ゾフルーザの子どもへの使用について考えていきます。
ゾフルーザの特徴とメリット
まずはゾフルーザが使われている理由として、特徴やメリットを紹介します。
1回飲めば治療が終わる簡便さ
ゾフルーザによるインフルエンザ治療は「ゾフルーザを一回飲む」だけです。
患者さんの体重によって1回何錠(包)飲むのかは異なりますが、点滴などのように痛みがあるわけでもなく、他の薬のような使い方の説明もほぼ不要なので、非常に簡単です。
咳がひどい場合や、高熱で辛い時にはとても助かるかもしれません。
一回飲むだけで効果が続くのは楽な反面、懸念すべき点もあります。
副作用も続く可能性があることです。
ゾフルーザ使用により、嘔吐や下痢などの副作用は起こりえます。
また、頻度は低いですが、下血や血尿、鼻血などの報告もあります。
仮に副作用が強く現れてしまった場合、なかなか収まらない可能性もあります。
医療機関での感染予防の可能性
簡便さにも関連していますが、ゾフルーザは服薬指導の手間が少なく、結果として医療機関(主に薬局)に滞在する時間を減らすことが出来ます。
例えば、リレンザの吸入は少々手間がかかるので、しっかり説明しないと吸入ミスにつながります。
イナビル吸入粉末も吸入の説明時間がかかりますし、目の前で実際に吸入してもらう場合には、リレンザ以上に時間がかかります。
点滴薬のラピアクタも、病院のベッドに長時間いないといけません。
このように、インフルエンザ治療薬は説明などで時間がかかることが多く、患者さんが医療機関に長時間いることが多くなります。
その点、ゾフルーザは一回飲むだけで治療が終わりになるので、とても短時間で終わります。
※一度飲んだら感染しなくなるというわけではありません。
ちなみに吸入薬を使用する場合は、思いっきり吸い込む必要があるので、咳き込みやすいです。
薬局内でイナビル吸入中のインフルエンザ患者さんが咳き込まれたことは過去にも何度もあります。
オセルタミビル(タミフル)も比較的説明時間がかからないですが、粉薬は苦味があるので、飲み方の説明に時間がかかることがあります。
他のインフルエンザ治療薬とは違う作用機序
ゾフルーザを除くインフルエンザ治療薬は、ノイラミニダーゼ阻害薬に分類され、同じような作用機序でインフルエンザに効果を発揮します。
対してゾフルーザは、違う作用機序でインフルエンザに効果を示します。
作用機序が違うことによる最大のメリットは、ノイラミニダーゼ阻害薬耐性インフルエンザウイルスが流行した時にも効果を発揮できるという点です。
ゾフルーザが耐性化しないように大切に使っていくことで、いざと言う時に唯一の選択肢になる可能性を秘めています。
ゾフルーザ顆粒も発売予定【イチゴ味】との情報も
2019年9月時点ではまだ発売になっていませんが、ゾフルーザ顆粒がいずれ発売する予定です。
既存のインフルエンザ治療薬で粉の飲み薬があるのはオセルタミビルだけです。
小さいお子さんにイナビルやリレンザのパウダーを上手く吸入してもらうのは難しいでしょう。
そのため、今まではオセルタミビルの粉薬か、ラピアクタという点滴の2択でした。
今後は、ゾフルーザ顆粒という選択肢が増える可能性があります(現時点で20kg未満の子に使えるかは未定です)。
また、イナビル吸入懸濁用という選択肢も増えています。
イナビル吸入懸濁用160mgセットにの既存のイナビル吸入粉末剤との違いや、多剤と比較した時のメリット・デメリットについて考えています。まだ実際に使用されている例が少ないため、推測しか出来ていない内容もあることはご了承ください。[…]
オセルタミビルの粉薬は苦味があるので、上手く飲めない子もいます。
ゾフルーザ顆粒の味は一部情報でイチゴ味とも言われていますが、オセルタミビルより飲みやすい味なのであれば、味もメリットの一つになり得ます。
ウイルス感染価を抑える
ゾフルーザにより、インフルエンザウイルスの感染価を抑えるという情報があります。
ただし、現実的には感染予防にどれほどの効果があるのかは不明です。
デメリットのほうに書きますが、ゾフルーザ使用歴の無いお子さんからゾフルーザ耐性インフルエンザウイルスが検出されている例もありますし、感染予防効果があったとしても限定的ではないかと考えています。
12歳未満の子どもにゾフルーザを推奨しない理由
ゾフルーザの添付文書には10kgからの用量設定があり、実際に使われています。
色々な意見がありますが、個人的には12歳未満の子にゾフルーザを使うことには消極的です。
まとめてしまうと、「現時点では、データや使用経験が少なく、あえてゾフルーザを選択する理由に乏しい」からです。
私がそのように考えている理由を説明します。
12歳未満の臨床試験のデータがとても少ない
12歳未満に対してのゾフルーザの有効性などを確認した論文はPubMedでも見つからず、国内第Ⅲ層試験に関する社内資料のみです。
ゾフルーザはアメリカでも発売されていますが、12歳未満の適応は通っていません。
2019年8月に台湾でも承認されましたが、対象は12歳以上に限られています。
つまり、現時点で12歳未満に使われているのは日本だけです。
もちろん、使用しなければデータは集まりません。
数年後にどう評価されているのかはわかりませんが、現時点ではデータが集まっているとは言えません。
新薬なので長期的な影響などが不明
データが少ないことにも関連しますが、「長期間使わなければ発見されない副作用」がある可能性」は否定できません。
これはどんな新薬も同じです。
「日本では新薬扱いだけど海外では以前から使われている薬」はその懸念も減りますが、ゾフルーザはそうではありません。
日本においては、2018-2019シーズンでも12歳未満に使用されており、結果として「出血」や「ショック,アナフィラキシー」に関する副作用などが追記されています。
投与数日後でも、血便、鼻出血、血尿等があらわれる場合があるようなのでご注意下さい。
また、ネット上では、嘔吐や下痢の頻度が高いという個人の意見を何度か眼にしています。
未知の副作用を踏まえても使うメリットのほうが大きい薬も存在するでしょうが、ゾフルーザについては違うと考えています。
ノイラミニダーゼ阻害薬耐性ウイルスが出てこない限りは、既存のインフルエンザ治療薬で十分なことが多いでしょう。
薬の種類によっては、子どもに特有の副作用なども報告されています。
子どもにゾフルーザを選択する理由はかなり限られるでしょう。
子どもは耐性化しやすいデータがある
ゾフルーザは発売前から「耐性化」についての話題が挙がっていました。
国内臨床試験ではゾフルーザ使用によるアミノ酸変異(I38)が、12歳未満の18/77(約23%)、12歳以上の36/370(約10%)で認められています。
このアミノ酸変異により、ゾフルーザに対する感受性が約50倍低下しています。
さらに、アミノ酸変異した患者集団では、ゾフルーザ投与3日目以降に一過性のウイルス力価低下が認められています。
ゾフルーザ服用2日後ぐらいにインフルエンザ症状が改善した方が、ゾフルーザ耐性インフルエンザウイルスを撒き散らしてしまう可能性も考えられます。
そうなるとゾフルーザは十分な効果を発揮できないでしょう。
2019年3月にゾフルーザ耐性ウイルスが3人のゾフルーザ未使用者から検出されており、発症前日に兄がゾフルーザを飲んでいた例もあり、兄弟間の感染の可能性も考えられます。
国立感染症研究所は、ゾフルーザ使用者からの感染の可能性があるとの見解を示しています。
12歳未満への使用数が増えてくれば、耐性ウイルスが現実的な問題になる可能性もあります。
飲むのを失敗(吐いたり)したらどうする?
ゾフルーザは1回で治療が終わりますが、裏を返せばその1回を失敗したら全く効果が期待出来ないということです。
例えば、オセルタミビルなら10回飲むことになりますが、1回失敗したとしても残り9回は問題なく飲めることも多いでしょう。
9回飲めれば10回と同等の効果が出るとは言い切れませんが、「ある程度の効果」は期待出来るでしょう。
薬価(値段)が高い
ゾフルーザは薬価が高いです。
同じ飲み薬のオセルタミビルよりも数倍高くなりますし、オセルタミビルのジェネリックと比較すればさらに大きな差になります。
医療費の自己負担が無い子どもでは実感しにくいですし、一人一人の負担額で見るとそこまで大きく感じないかもしれません。
しかし全体としての負担金額はかなり変わることも忘れてはならないと考えます。
私が12歳未満の子にゾフルーザを使うことに消極的な理由はこれらの内容が主な理由です。
なお、日本小児科学会も子どもにゾフルーザを使用することは推奨していません。
個人的におすすめするインフルエンザ対策:予防接種はして欲しい
基本的に、子どもにはインフルエンザの予防接種をすることを推奨します。
インフルエンザの予防接種をすれば100%インフルエンザにならないというわけではありませんが、重症化を防ぐことが出来ます。
インフルエンザワクチンについてはもっと詳しく書かれていることも多く今更感も強いですが、より幅広い層に届けるために、私なりにまとめてみたいと思います。 まず知っていただきたい事として、インフルエンザワクチンによってイ[…]
基本的にインフルエンザは治療しなくても治ります。
ハイリスクな人や重症の人を除けば、インフルエンザ治療薬の必要性は高くありませんし、無理なく栄養を摂りつつ5日程度休むことがベストだと考えています。
インフルエンザ治療薬の使用量も、世界的に見ると日本は異常に多いようです。
しかし、子どもの熱を1日でも早く解熱させてあげたいという親心もわかりますし、インフルエンザ治療を否定するわけではありません。
インフルエンザに限らず、熱が出たら5日ぐらい休むようになればよいのにと、もう10年ぐらい考えていますが、社会は変わりませんね。
医療関係者は熱が出たら休むことの重要度を理解していると思いますが、全国的には一人開業医、一人薬剤師の医療機関も多く、医療関係者もなかなか休めない現状があります。
まずはその問題から解決していかなければいけないかもしれません。
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ゾフルーザについての私見まとめ
ゾフルーザについては色々な意見があると思います。
とはいえ、データが少なく代替薬がある高価な薬を積極的に使う理由はないと考えています。
子どもに対しての使用データはさらに限られますので、より慎重さが求められます。
ゾフルーザはノイラミニダーゼ阻害薬に耐性を持ったインフルエンザが流行った場合には、特効薬としても使えるでしょう。
過去には、2007-2008シーズンにタミフル耐性インフルエンザが流行したこともあります。
今はインフルエンザ治療に使われることはまずないですが、「アマンタジン」はインフルエンザA型については100%耐性化しているとも言われています。
ゾフルーザはタミフル耐性インフルエンザへの特効薬となる可能性を秘めているが、それもゾフルーザ耐性が増えていなければの話です。
ほとんどの薬に「類似薬と比較した時の適切な使い所」があると考えています。
ゾフルーザは1回投与で済むので、子どもにも使いやすいメリットもありますが、耐性化していたら何の意味もありません。
ゾフルーザは使い方次第で、代わりの無い非常に良い薬であり続けると考えています。
使用の簡便さだけで選択せず、既存のインフルエンザ治療薬も含めた適切な使い分けが理想的です。
インフルエンザ治療薬については以下の記事で簡単にまとめています。
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