子どもは生後6ヶ月頃から鉄分が不足して貧血になりやすくなってしまいます。
鉄分不足による貧血を「鉄欠乏性貧血」と言いますが、小さい子には「インクレミンシロップ」が使用されることが多いです。
この記事では以下の内容についてまとめています。
インクレミンシロップの注意点【遮光|着色】
なぜ乳児は鉄欠乏性貧血になりやすいのか?
どうしたら鉄欠乏性貧血を予防できるのか?
鉄欠乏性貧血は何が問題なのか?
インクレミンシロップの味や飲ませ方/飲みあわせには注意あり
鉄欠乏性貧血に使う鉄剤はたくさんありますが、インクレミンシロップは鉄剤唯一のシロップ剤なので、小さい子にも使われることが多いです。
インクレミンシロップの味や飲ませ方
インクレミンシロップは、口に入れた瞬間は割と美味しい味ですが、後味は鉄の味です。
飲んでるお子さんからも「まずい」という意見をよく聞きます。
※極端に苦い薬(アジスロマイシン・デカドロンなど)と比べれば、飲めないお子さんは少ない印象があります。
赤ちゃんや小さい子に飲ませる場合は、1回に飲む量が1~3mL程度ととても少ないです。
横抱きの上、スポイトを使って口内の側面から飲ませるのが一番楽だと思います。
インクレミンシロップの味を嫌がる場合、オレンジジュースと混ぜることをおすすめします。
インクレミンの味をごまかすには濃い味のものが比較的向いていますが、その中でもオレンジジュースが一番違和感なく飲めました。
子どもに使う鉄剤の粉薬としてはフェロミア顆粒もありますが、インクレミンよりも鉄の味が強く飲みにくい印象です。
インクレミンシロップの飲みあわせ【薬や飲み物と混ぜていい?】
インクレミンは飲みあわせにも注意が必要で、下記の薬や食品と併用注意とされています。
- テトラサイクリン系抗生物質(ミノマイシンなど)
- 制酸剤
- セフジニル
- ニューキノロン系抗菌薬
- 甲状腺ホルモン製剤(チラーヂンなど)
- タンニン酸を含有する食品
家で飲むときには、以下の飲み物と混ぜたりすると薬の効果に影響が出ることがあります。
- 牛乳や乳製品
- ビタミンCがとても多いもの
- コーヒー・紅茶・一部お茶などのタンニンが多いもの
個別の判断は処方元の医師・薬剤師に確認していただきたいと思います。
なお、先程紹介したオレンジジュースは基本的に問題ありません。
薬と飲み物の飲みあわせについては以下の記事でもまとめています。
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インクレミンシロップを遮光保存する理由
インクレミンシロップは光によって徐々に変色していくので、遮光保存(光を避ける)してください。
室内蛍光灯下 8 日間放置後、露光面はうす褐色
室内窓際直射光下 1 時間放置後、露光面はうす黒色
引用:インクレミンシロップインタビューフォーム
インクレミンシロップのインタビューフォームを読む限り、ポリ容器へ小分け後や単シロップと配合後の安定性はそこまで悪いとも言えず、成分量への影響は大きくないと予想できます。
しかし、インクレミンシロップは長期間服用/処方されることもあるため、十分な効果を出すためにも遮光して保存することをおすすめします。
インクレミンシロップの下痢などの副作用と注意点【口、舌、歯、便などが黒くなる】
本剤の副作用集計対象となった150例において、副作用及び臨床検査値の異常は認められなかった。(承認時)
引用:インクレミンシロップ5%添付文書
インクレミンシロップは他の鉄剤と比べて気持ち悪くなったり、胃が痛くなったりする消化器系の副作用頻度は少ないと言われます。
しかし、副作用集計の対象の多くが乳幼児だったとすれば、消化器系の副作用報告が少ないのも当然でしょう。
念のため、他の鉄剤と同様に、下痢・嘔吐・食欲不振などの胃腸症状には注意したほうが良いと思います。
また、副作用ではなく注意点ですが、鉄剤は酸化したら黒くなります。
インクレミンシロップは液剤なので、タンニンなどと反応して舌や歯も含めた口の中が一時的に黒くなることがあります。
便や舌が真っ黒になって驚かれることは少なくありません。
事前に説明を受けていなければかなり驚いてしまうと思いますが、珍しいことではありませんので安心してください。
インクレミン自体の説明はここまでで、次は子どもの鉄欠乏性貧血についての説明になります。
鉄欠乏が慢性化すると成長に影響を及ぼす可能性もあるので注意しましょう。
子どもの鉄欠乏性貧血と対策【成長への影響も】
新生児は母体由来の鉄分が肝臓に蓄えられており、生後6か月ごろまでは鉄欠乏になりにくいです。
生後6か月ごろからが鉄欠乏性貧血に注意が必要になる時期になります。
そもそも日本人女性には鉄欠乏が多いので、完全母乳育児の場合はお子さんの鉄欠乏にもつながる可能性があります。
完全母乳育児にはメリットも多く、鉄欠乏にならないお子さんの方が多いですが、念のため注意しておきましょう。
母乳中の鉄分は吸収率が良いのですが、含量が少なく不足につながりやすいです。
粉ミルクは種類によっては鉄分が多いものもありますが、基本的に吸収率は低いです。
可能であれば、離乳食で鉄分を取るのが理想的です。
なお、母乳育児の場合は、鉄不足よりもビタミンD不足に気を付けた方が良いかもしれません。
ほどよい日光浴は大切だと考えています。
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鉄欠乏性貧血の予防【離乳食・フォローミルク・その他】
鉄分が多い食事(離乳食)を心がける
肉や魚、レバーなどから摂れるヘム鉄は吸収率が高いですが、鉄分の含有量は少ないです。
それに対して、野菜(小松菜など)から摂れる非ヘム鉄は吸収率が低いですが、鉄分の含有量は多いです。
効率良く鉄分を摂るために、鉄分の多い肉と野菜を両方一緒に食べれると良いでしょう。
また、ビタミンCは鉄分の吸収率を上げるので、一緒に食べれるとなお良いでしょう。
とはいえ、鉄分だけを気にするのではなく、バランスよく離乳食をあげるようにして下さい。
※ほうれんそうは鉄分の含有量が多いですが、シュウ酸も多く含むため吸収率は悪いです。
フォローアップミルク(鉄分が多く含まれているミルク)を与える
フォローアップミルクには通常の粉ミルクより多くの鉄分が多く含まれています。
ただし、必ずフォローアップミルクを使わなければいけないというわけではありません。
どうしても離乳食での鉄分補給が難しい場合に検討すれば良いでしょう。
牛乳やスナック菓子には注意が必要【鉄分不足になるかも】
牛乳は鉄分含有量も吸収率も低いです。
牛乳で満腹感が得られる結果、離乳食の量が減って鉄分不足の原因になる可能性もあります。
牛乳を飲みすぎないようにすることで、乳幼児の鉄分不足が改善できる可能性があります。
参考:Health effects of cow’s milk consumption in infants up to 3 years of age: a systematic review and meta-analysis.
ジュースやおやつが多すぎても、離乳食が十分量食べれない原因になりかねません。
インスタント食品やスナック菓子などには、鉄分の吸収を妨げるリン酸塩などが含まれているものもあるので、特にあげすぎないようにしましょう。
鉄欠乏性貧血が成長に影響する可能性
鉄欠乏性貧血はまったく症状が出ないこともあり、子どもは血液検査をする機会も少ないため、なかなか気づきにくい疾患です。
しかし、鉄欠乏性貧血が慢性化すると、子どもの成長に影響が出る可能性があります。
乳幼児期の慢性的な鉄欠乏性貧血は運動機能や、認知機能など様々な影響を与える可能性が報告されています。
また、貧血の有無にかかわらず、鉄分不足が子どもの社会的行動に影響を与える可能性などが報告されています。
参考:Dose-response relationships between iron deficiency with or without anemia and infant social-emotional behavior.
ほとんどの場合、離乳食などが食べれていれば問題になることはありません。
とはいえ、明らかな鉄分不足であれば、軽視することも出来ません。
そのため、血液検査などで鉄分の欠乏が発覚した場合は、インクレミンシロップなどで治療をします。
インクレミンシロップの飲み方の参考や、鉄欠乏性貧血や鉄分補給の知識を増やすお役に立てたでしょうか?
可能な限り、食事などの工夫で上手く鉄分を補給してもらいたいと思います。
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