劇薬は普通薬よりも確実に危険と言えるのか?【基準と例外について説明】

劇薬は普通薬よりも確実に危険と言えるのか?【基準と例外について説明】

時々、医薬品の安全性について「劇薬だから危険」という意見を眼にすることがあります。

特に見かけるのは、「ワクチンは劇薬だから~」という意見です。

しかし、そういう意見を出すのは、多くが医薬品に詳しくない人の意見です。

 

劇薬だから危ないという意見は大まかに言えば正しいです。

しかし、劇薬だから絶対に普通薬よりも危険とは言えませんし、ましてや絶対に使わないほうが良いという意見には賛同できません。

 

個人的には、「劇薬は危険」と「刃物は危険」に差を感じません。

結局のところ使い方次第です。

普通薬と劇薬について考えてみたいと思います。
※毒薬についても少し触れます。

劇薬や毒薬の基準【普通薬とは何が違うのか】

まずはじめに、「普通薬」・「劇薬」・「毒薬」はすべて「薬」です。

一方で、毒薬は「毒」とは書かれていますが、飲んだら害と言い切れるものではありません。

劇薬も「劇」だからといって、「劇的に効く」わけでもありません。

当たり前のことですが、やたらと「毒」・「劇」を強調され、「薬」という文字が見えなくなっている方がいますので。。

 

普通薬・劇薬・毒薬は、そのリスクなどに応じて大まかに分類されています。

その分類の基準については以下の通りです。

① 急性毒性(概略の致死量:mg/kg)が次のいずれかに該当するもの。
1)経口投与の場合、毒薬が30 mg/kg以下、劇薬が300 mg/kg以下の値を示すもの。
2)皮下投与の場合、毒薬が20 mg/kg以下、劇薬が200 mg/kg以下の値を示すもの。
3)静脈内(腹腔内)投与の場合、毒薬が10 mg/kg以下、劇薬が100 mg/kg以下の値を示すもの。

② 次のいずれかに該当するもの。なお、毒薬又は劇薬のいずれに指定するかは、その程度により判断する。
1)原則として、動物に薬用量の10倍以下の長期連続投与で、機能又は組織に障害を認めるもの
2)通例、同一投与法による致死量と有効量の比又は毒性勾配から、安全域が狭いと認められるもの
3)臨床上中毒量と薬用量が極めて接近しているもの
4)臨床上薬用量において副作用の発現率が高いもの又はその程度が重篤なもの
5)臨床上蓄積作用が強いもの
6)臨床上薬用量において薬理作用が激しいもの

参考:厚生労働省資料

 

①の基準は明確ですが、②の基準はあいまいですね。

わかりやすい①の基準で考えれば、より少ない量で致死量(正確にはLD50:半数致死量)に到達するものから、毒薬>劇薬>普通薬となっています。

 

つまり、劇薬・毒薬の基準は大まかに「体重1kgあたりの半数致死量」で決まっていると言えます。

ここだけ見ると、明らかに劇薬のほうが普通薬よりも安全性が低いと言えます。

 

ただし、劇薬・毒薬の分類には「一般的に使用される薬の量」という視点が入っていないため、劇薬だから危ないという意見は適切とは言えません。

 

例えば、飲み薬において「急性毒性が400mg/kgで1回量が100mg/kgの普通薬」と「急性毒性が200mg/kgで1回量が10mg/kgの劇薬」どちらが安全と言えるでしょうか?

この場合、普通薬は4錠、劇薬の量は20錠でLD50に到達します。

このように比較すると、明らかに普通薬のほうが危険と感じますよね?

 

もちろん、現実にはここまで極端な例はありませんが、「実際に使用される量」という視点で見ると、明らかに安全性が逆転するものもあります。

そして、この場合は「致死量」という視点でしか見ておらず、「致死的ではないが重篤な副作用」なども視点としては重要です。

 

これらは②の基準でカバー出来ている薬もあれば、そうでない薬もあります。

例えば、TDM(薬物血中濃度モニタリング)の対象薬とされる「テオフィリン」の一部や「バルプロ酸Na」なども普通薬として扱われています。

ちなみに、劇薬・毒薬のほうが効果が強いとも限りません。

カフェインなどは1個あたりの量で劇薬になる

さて、多くの人が毎日のように摂取しているものにも、「劇薬」があるのはご存知でしょうか。

それは「カフェイン」です。

カフェインは医薬品としても使用され、かつLD50が200mg/kgなので、劇薬の基準に入る成分です。

 

とはいえ、カフェインのすべてが劇薬扱いでないことは周知の事実。

コーヒー、お茶類、チョコレート、ガム、栄養ドリンク、エナジードリンク、眠気覚まし製品など色々なものに含まれていますが、スーパーでも買えていますね。

医薬品医療機器等法医では1個あたりに500mg以上のカフェインを含むものが劇薬扱いと指定しています。

関連記事

「子どもは何歳ごろからカフェインを摂取しても良いの?」という疑問は、一度は気になったことがあるのではないでしょうか。とはいえ、カフェインを全く取らないというのもなかなか難しいです。日本茶やココア、炭酸飲料、そしてチョコなどに[…]

子どもの年齢ごとのカフェイン摂取について【過剰には注意】

 

子どもの解熱剤として使われるアセトアミノフェンも同じように、包装によっては劇薬扱いとなります。

 

このように、「1個あたりの成分量」次第では「劇薬」・「普通薬」が異なることもあるわけです。

「劇薬」という言葉にそこまで過剰に反応する必要があるのでしょうか?

 

ところで、日本では最も有名かつ市販薬まである「ロキソニン」が10年ぐらい前まで劇薬だったことはご存知ですか?
あのときほど、「劇薬とは?」と考えさせられたことはなかったです。
※中身は全く変わっていませんので、おそらく当初の想定よりも安全だったということなのでしょう。

 

同じように考えてはいけませんが、抗真菌薬のファンギゾンは飲み薬だと劇薬、注射用だと毒薬扱いになります。

劇薬は普通薬よりも確実に危険なのか

劇薬が普通薬よりも少ない成分量で致死的になるということは間違いありません。

そのため、一般的には劇薬が普通薬よりも危険と言えます。

ただし、必ずしも実際に使われている量が加味されているわけではありませんし、量次第で劇薬になるものもあります。

 

一方で、日本では睡眠薬として使われている普通薬(かつ向精神薬)のサイレースが、一部の国では麻薬扱いになり持ち込みが禁止されることもあります。

 

このように、「劇薬だから危険」は本質的ではありません。

「劇薬だから危険」と避けるのではなく、適切な量と使い方を考える方が有益です。

 

電気・ガス・水・火・刃物などの日常的に使っているものも同じですよね?

使い方を誤ることで致死的になる物事は山のようにあります。

 

「毒」とか「劇」とかの単語のイメージを考えれば、危険というイメージを思い浮かべてしまうのは仕方ないことだとと思います。

しかし、必ずしもそうとも限らないことは紹介した通りです。

 

このように、薬に関して誤解されていることもありますが、適切な医薬品の知識を持ってもらうことも薬剤師の仕事です。

薬について不安に感じることがあれば、かかりつけの薬剤師に相談してみてはいかがでしょうか?