インフルエンザワクチンを接種すべき理由と根拠【子ども・妊娠中も推奨】

インフルエンザワクチンを接種すべき理由と根拠【子ども・妊娠中も推奨】

インフルエンザワクチンについてはもっと詳しく書かれていることも多く今更感も強いですが、より幅広い層に届けるために、私なりにまとめてみたいと思います。

 

まず知っていただきたい事として、インフルエンザワクチンによってインフルエンザを発症リスクをゼロにすることは出来ないと言うことです。

 

過剰な期待はインフルエンザワクチンへの失望感などに繋がり、ひいては不要論に繋がりかねません。

医療全てに言えることですが、「正しく理解して医療を受ける」ことが最も大切だと考えます。

 

発症リスクをゼロにすることは出来ませんが、私はインフルエンザワクチン接種を推奨しています。

その理由と根拠を説明します。

インフルエンザワクチンの効果は【発症予防・重症化予防・集団免疫】

インフルエンザワクチンに期待される効果は、主に以下の3つです。

  1. 発症するリスクを減らす
  2. 重症化するリスクを減らす
  3. 集団免疫による感染予防効果

順に説明します。

インフルエンザを発症するリスクを減らす

健康な子どもに対して不活化ワクチン(日本は不活化ワクチンです)を投与した場合、プラセボもしくはワクチン未接種と比較して、発症リスクが30%から11%に減少します(コクランレビュー)。
参考:Vaccines for preventing influenza in healthy children

 

発症リスクが30%→11%ということは、(30-11)/30、つまり63.3%ほどの有効率と考えることが出来ます。
※インフルエンザワクチンは毎年流行する株(種類)が変わるという特性もあり、毎年数値が変わるのが普通です。

 

ここで注意してほしいのは、有効率63%とは「ワクチンを打っていなくてインフルエンザを発症した人の63%は、ワクチンを摂取していたら防げた」ということです。

「ワクチンを打った人の63%がインフルエンザを発症しなかった」ではありません。

 

ワクチンを打ってもインフルエンザを発症することもあるため、「無意味」と捉えられることがあります。

たしかに、「その年のその人にとってはほとんど意味が無かった」可能性もありますが、だからインフルエンザワクチンは無意味とも言い切れません。

インフルエンザワクチンには重症化を防ぐ効果もあるからです。

インフルエンザが重症化するリスクを減らす

インフルエンザの重症化とは「入院・命に関わる場合」のことです。

私にはインフルエンザ発症により激しい頭痛と40℃を超える発熱でとても辛かった体験がありますが、これは重症化ではありません。

 

重症化予防の報告として、子どものインフルエンザに関連する死亡を大きく減らすという報告があります。
参考:Influenza Vaccine Effectiveness Against Pediatric Deaths: 2010-2014.

 

多くの場合は、インフルエンザになっても命に関わることはないと思います。

ただし、子ども・妊婦・高齢者・呼吸器疾患がある人などは重症化リスクが高いと言われており、ワクチン接種が推奨されています。

集団免疫による感染予防効果

さらには、インフルエンザワクチンの間接的な効果も示唆されています。

多くの研究から、インフルエンザワクチンを接種する人が多いと、ワクチンを打てない/打っても効果の出にくい人のインフルエンザ発症を防げると考えて良さそうです。
参考:Exploring indirect protection associated with influenza immunization – A systematic review of the literature.

これを「集団免疫」と言います。

 

集団免疫は、最近では風疹の流行の際にも、話題になっています。

日本でも小学校でのインフルエンザワクチンの集団接種をしていた時期がありました。

その時期の日本での小学生への集団接種が年間3.7万人~4.9万人のインフルエンザによる死亡(子ども以外も含む)を防いでいたという大変インパクトのある報告もあります。
参考:The Japanese experience with vaccinating schoolchildren against influenza.

 

個人的には、希望者に限り、幼稚園や小学校などでの集団接種の再開を検討しても良いと考えています。

家庭ごとにインフルエンザの予防接種を受けにいくことも結構な労力ですよね。

インフルエンザワクチンの誤解

インフルエンザワクチンに関する誤解に関しても、少し触れておきたいと思います。

インフルエンザワクチンは生後6か月から推奨されている

インフルエンザワクチンは何歳から打てるの?

このような相談をされることがあります。

最初に紹介したコクランレビューには、2歳未満への根拠に関して質の高い証拠はない(効果がないわけではない)としています。

 

たしかに、インフルエンザワクチンは2歳未満は効果が低いという報告もありますが、効果がないわけではありません。

日本小児科学会の「任意接種ワクチンの小児(15 歳未満)への接種」でも、インフルエンザワクチンはすべての6か月以上の小児に推奨とされています。
※6か月~12歳は2回/年、13歳以上は1回/年を毎年接種を推奨しています。

また、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどでも、生後6か月ごろから接種を推奨しています。

 

最終判断は保護者の皆さんですが、小さい子はインフルエンザ重症化のリスクもあるので検討しても良いでしょう。

集団免疫を考えると、6か月未満のお子さんがいたとしても、家族みんながインフルエンザの予防接種をすることでお子さんの発症を防げる可能性もあります。

また、妊娠中の母親がインフルエンザワクチンを接種することも効果的だと報告されています(後述します)。

卵アレルギーでもインフルエンザワクチンは打てる

インフルエンザを含め、いくつかのワクチンは鶏卵を用いて培養されています。

そのため、とても微量の卵成分が含まれていることは事実です。

卵アレルギーの人がインフルエンザワクチンの卵成分でアレルギーを起こす可能性はゼロとは言えないのかもしれません。

 

しかし、数多くのデータを調べた結果、「卵アレルギーがある人のインフルエンザワクチンの接種によるリスクは、卵アレルギーがない人と変わらない」とされています。

 

アメリカ小児科学会も、「インフルエンザワクチン接種前に卵アレルギーを確認する必要はありません。」としています。
参考:Recommendations for Prevention and Control of Influenza in Children, 2019–2020

 

前述したようにインフルエンザワクチンによるメリットはとても大きいです。

添付文書やインフルエンザワクチンの予診票の記載など、制度上の問題もありますが、卵アレルギーだからインフルエンザワクチンは打たない(打てない)という選択はおすすめできません。

 

ただし、アナフィラキシーを起こしたことがあるなどの重度の卵アレルギーの場合は注意はしておいたほうが良いでしょう。

しかし、現在の日本ではインフルエンザワクチン接種は病院ほぼすべて病院でするので、万が一アナフィラキシーが起きたとしてもその場での対処が可能なはずです。

妊娠中・授乳中のインフルエンザワクチンも問題なし

子育て世帯としては、妊娠中や授乳中にインフルエンザワクチンを使用したほうが良いかどうか、迷ったり聞いたりしたこともあると思います。

結論としては、どちらの場合もインフルエンザワクチンは推奨されています。

 

先程紹介したアメリカ小児科学会の報告でも推奨されているので、内容のごく一部を抜粋します。

  • 妊娠中のすべての女性をインフルエンザとその合併症から保護するために推奨
  • 妊娠中のインフルエンザワクチンは生まれてくる胎児にも効果があり、インフルエンザに関連した入院を減らす
  • 妊娠中のインフルエンザワクチンは主要な先天性奇形の発生率や流産の増加と関連していない
  • 母親や乳児がインフルエンザにかかっている場合でも、一部の場合を除き母乳育児を奨励

特筆すべきは、生まれてくるお子さんにまで入院を減らす効果が及ぶということです。

 

先程紹介したように、お子さんのインフルエンザワクチンの接種は生後6か月からです。

生後6か月未満のお子さんを守ることにもつながる可能性もあります。

 

その他にも、以下の点にも注意が必要です。

  • 妊娠中は感染症にかかりやすくなる
  • 妊婦の入院リスクが上がる
  • 妊婦がインフルエンザになると、自然流産や早産などが増加する

 

妊婦がインフルエンザを発症した場合、心肺機能が悪化しやすく入院になるリスクは上がる(妊娠14~20週で1.4倍、妊娠27~31週で2.6倍、妊娠37~42週で4.7倍)と報告されています。
参考:Impact of influenza on acute cardiopulmonary hospitalizations in pregnant women.

 

相談された場合は、このような理由によりインフルエンザワクチンは接種したほうが良いと思います。と伝えています。

なお、授乳している母親が抗インフルエンザウイルス薬を使用する場合は、オセルタミビル(タミフル)が推奨されています。

インフルエンザワクチンの接種を推奨します

インフルエンザワクチンは万能ではなく、予防接種をしたからと言って100%防げるわけではありません。

それでも、インフルエンザ発症時の重症化リスクを抑えることが出来ますし、集団免疫を付けることで大流行を防ぐことも出来るかもしれません。

 

特にハイリスクとされる、子ども・妊婦・高齢者・基礎疾患がある人などには接種が推奨されます。

妊婦さんの場合、胎児にまで効果が及ぶとの報告もあります。

そのため、私はインフルエンザワクチンを推奨しています。

 

インフルエンザワクチンの危険性を過度に誇張するような記事を見かけることもありますが、信頼できる医師・薬剤師を身近に見つけ、インフルエンザワクチンの接種について一緒に考えてもらえればと思います。

私個人としても、妊婦さんやお子さんに接することも少なくないので、インフルエンザワクチンを接種し、少しでも感染を拡げないようにしていきたいと考えています。