経口第3世代セフェム系抗生物質の気になる点【BA・量・抗菌スペクトル・耐性菌・副作用】

経口第3世代セフェム系抗生物質の気になる点【BA・量・抗菌スペクトル・耐性菌・副作用】

経口第3世代セフェム系抗生物質を調剤するたび、「なぜ第3世代セフェム系でなければならないのか?」と考えてしまうことが多いです。

理由があって選択されていると思いますが、個人的にはあまりメリットを感じないからです。

経口第3世代セフェム系の気になる点などをまとめます。

経口第3世代セフェム系抗生物質の気になる点

経口第3世代セフェム系抗生物質には、いくつか気になる点があります。

一部については注射剤も関連していますが、基本的に「経口」つまり「飲み薬」を対象とした内容です。

BA(生物学的利用能)が低い

BA(bioavailability:生物学的利用能)とは、投与された薬が全身循環血中に届くかの指標です。

適切な表現とは言えませんが、「投与した薬の何%が効果を発揮するのか」と捉えるとわかりやすいかもしれません。

 

経口第3世代セフェム系はBAが低く、高くても50%弱で、中には20%を切る成分もあります。

対して、よく比較される経口のペニシリン系や経口第1世代セフェム系は90%程度と高めです。

つまり、飲んだ量の大半は効果を発揮しないと言えます。

 

ここで誤解しないでいただきたいのは、BAが高ければ良いというわけではありません。

BAが低いことも計算にいれて服用量を決めれば十分な効果が期待できますが、ここでひとつ問題が出てきます。

保険適応量が少ない

日本には国民皆保険制度があり、この制度を使用する以上守らなければならないルールがあります。

薬ごとに、何に使ってよいのか、どれぐらいの量を使うのかなど、事細かに決まっています。

 

ここで問題になるのが、「第3世代セフェム系の使える量が海外よりも明らかに少ない 」ことです。

とある経口第3世代セフェム系抗生物質の通常量では黄色ブドウ球菌の標準MIC(細菌の増殖を阻止するための必要最小量)を十分に超えていません。

つまり、BAが低くても十分量飲めば効きますが、保険制度上、十分量出すことが難しいということです。

 

なぜこのような量になっているのかはわかりませんが、現状のルールでは十分量の経口第3世代セフェム系を使用することは難しいです。

また、仮に十分量ではない場合、「効かない」だけでなく、「速やかに抗生物質が必要な疾患の発見を遅らせてしまう」可能性もあります。

抗菌スペクトルが(余計に)広い

第3世代セフェム系は抗菌スペクトルが広いことも特徴です。

抗菌スペクトルが広いと言うのは、より多くの菌に対して抗菌作用があるということです。

 

これは一見良いことのように感じると思います。

たしかにエンピリック治療などで使用するには、抗菌スペクトルが広いほうがメリットがあります。

一方で、効かなくても良い菌にも影響を与えるとも言えます。

 

人間の体には100兆個もの微生物(主に細菌)がいるとされ、共生しています。

有名なのは腸内細菌叢ですが、第3世代セフェム系はここにも影響を与えます。

 

もちろん、病気の原因になる菌にも影響を与えますが、ここで気になる問題が出てきます。

それは「耐性菌」です。

耐性菌の懸念がある

 

経口第3世代セフェム系は、十分な量を使うことが難しく、かつ広範囲に効果のある抗生物質です。

幅広い菌に不十分な効果があるため、耐性菌を生み出しやすい環境と言えます。

実際に、経口第3世代セフェム系の通常使用される量で耐性菌が出ています。
参考:Comparison of the Efficacies of Oral β-Lactams in Selection of Haemophilus influenzae Transformants with Mutated ftsI Genes.

 

ここ数年で耐性菌を減らす取り組みが広がっており、第3世代セフェム系抗生物質の使用も減ってきています。

ここまでで、十分な効果が出ているか疑問で、かつ耐性菌の懸念もあると言えます。

特有の副作用【低血糖】

どんな薬でも副作用はあります。

他の多くの抗生物質と同様に、第3世代セフェム系も下痢や軟便などは起こりやすいと言えます。

これは抗生物質の種類を変えても変わらない部分です。

 

一方で、一部の第3世代セフェム系に特有の副作用もあります。

第3世代セフェム系にはピボキシル基を含むものが多いですが、このピボキシル基が子どもの低血糖の原因になることがあります。

 

十分な量ではなくても副作用が出ることはあります。

つまり、効かない薬を飲んで、副作用だけでるという可能性もありえないとは言えません。

日本特有の問題【誤用も多い?】

さらには日本特有の問題もあります。

経口第3世代セフェム系抗生物質の一部は、そのほとんどが日本でしか使用されていません。

日本だけだからいけないわけではありませんが、海外で使用されていないということは、良くも悪くもエビデンスがあまり増えていきません。

 

そして、日本において抗生物質は誤用が多いとも言われています。

例えば、風邪に抗生物質は不要ですし、急性気管支炎・急性中耳炎・急性副鼻腔炎・歯科の予防投与などでも抗生物質は必須とは言えません。

※これらの病気の時に抗生物質を飲んで良くなったという実感がある方もおられるかもしれませんが、たまたまそのタイミングで自然治癒した可能性やプラセボ効果の可能性もあります。

 

そして、これらの病気に使用されるのは、経口第3世代セフェム系であることが多い印象があります。
※一部ガイドラインでは経口第3世代セフェム系を推奨しています。

経口第3世代セフェム系抗生物質には「抗生物質の必要性が高くない病気に使用されることが多い」という謎の特徴があると個人的には思っています。

経口第3世代セフェム系は良い点もあるが、積極的に選ぶ理由は少ない

ここまでで紹介したように、経口第3世代セフェム系抗生物質には以下の気になる点があります。

  • 十分な効果があるか疑問(BAと保険適応量)
  • 耐性菌が生まれやすい可能性(十分量でなく抗菌スペクトルが広い)
  • 一部は特有の副作用(低血糖)もある
  • 誤用が多い可能性もある

 

「本当に効いていないのか?」という判断は容易ではありませんが、諸外国よりも処方できる量が少ないのは事実です。

仮に量が十分でないとすれば、効かないだけでは済まず有害事象まで出る可能性もあります。

経口第3世代セフェム系には、常にそのような懸念があると感じています。

 

とはいえ、使ってはいけないとは思っているわけではありませんし、「意味がないからやめるように」なんて言うつもりも全くありません。

実際に第3世代が必要なケースもあると思いますし、十分な量を適切な疾患に、低血糖などにも注意の上使用するのであれば問題ないからです。

 

処方せんだけではわからない情報がも多く、一般的に薬局では適切かどうかの判断が出来ません。

ただ、調剤をしていると、十分量とは言えないこともありますし、安易に使われているのではないかと疑問を持つこともあります。

 

一部ガイドラインでは第3世代セフェム系が推奨されていることもあり、ガイドラインに沿った治療であるという面もあります。

しかし、その中にはペニシリン系や第1世代セフェム系で十分なケースもあるはずです。

 

一方で、患者さんにとってのメリットが無いわけではありません。

個人的に経口第3世代セフェム系抗生物質の良い点は「飲みやすさ」だと感じています。

ペニシリン系や第1世代セフェム系と比較すると1回で飲む量(嵩)が少なく済むことが多いです。

また、「味」という点でも、第3世代セフェム系は、割と飲みやすいと言えます。

 

ただし、味や嵩については、飲み方の指導でなんとかなることが多いです。

もし「飲みやすさ」を優先して第3世代セフェム系を選択されていることがあれば、もっと薬剤師を頼ってもらえればと思います。

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