小児の川崎病治療にアスピリンを使うことはよくありますが、私の周りではバイアスピリン錠剤の粉砕調剤が指示されていることが多いです。
バイアスピリンを粉砕するたびにモヤモヤすることがあるので改めて考えてみました。
また、アスピリン製剤の中でも川崎病に適応のある/ないがバラバラなので、そちらも調べています。
川崎病についても簡易的にまとめてみましたが、詳しい人向けの内容ではありませんのでご了承下さい。
バイアスピリン粉砕の問題点【腸溶性・加水分解による酢酸臭】
腸溶性は失われる
御存知の通りバイアスピリンは腸溶性製剤なので、粉砕すれば腸溶性はなくなります。
バイアスピリンにコーティングがされている理由の一つは、胃への負担を軽減するためです。
湿気による加水分解対策については後述します。
しかし、そもそも川崎病で使用する場合には、原末を使うか、バイアスピリンなどの錠剤を粉砕するかの2択です。
川崎病に使用するアスピリンの量は、急性期は30~50㎎/kgを1日3回、解熱後は3~5㎎/kgを1日1回です。
3~5㎎/kg/日で服用する期間が長いですが、バイアスピリン錠を粉砕せずに使用するためには体重20kg以上が目安です。
つまり、川崎病が多い年齢(4~5歳以下)を考えれば、腸溶性を保つことは現実的ではありません。
「胃への負担」という点を重視するのであれば、(必要性があるかどうかは別として)胃薬を追加することで解決できます。
加水分解による安定性の変化【成分量と酢酸臭】
アスピリンは空気中の水分により加水分解され、サリチル酸と酢酸になります。
加水分解されることによって最も気になるのは、成分量が減少する懸念があることです。
バイアスピリン錠のインタビューフォームには以下の記載があります。
本品を粉砕後,25℃ 75%RH 1000 ルクス/hr 下にグラシン紙+薬袋で保存した結果,30 日後も安定であった
30 日保存した結果,水分の増加(約 0.8%)やサリチル酸のわずかな増加(0.2%)が認められたが,規格範囲内であった.
外観及びアスピリン含量は変化なく安定であった.
規格範囲内とのこともあり、30日程度であれば成分量については極端に気にしなくても良さそうにも感じます。
しかし、30℃で湿度80%の条件下で90日後に含量が50%弱にというデータもあるので、長期処方には注意も必要です。
また、加水分解による問題はもう一点あります。
アスピリンが加水分解され酢酸が生じるため、かなりの「酢酸臭」が出ることです。
バイアスピリンを粉砕したことがある方ならわかると思いますが、潰し始めたらすぐに酢酸臭がしてきます。
空気に触れるほど加水分解が広がるので、出来るだけ少ない動作かつ、素早く粉砕が求められます。
ミキサーすると特に酢酸臭が強い気がするので、私は出来るだけ乳鉢で潰すようにしています。
服用者や保護者・介護者もかなり気になっているのでないでしょうか?
さらに、酢酸臭を増やす要因があります。
それは賦形です。
アスピリンを賦形していけないわけではなく、アスピリンを潰し表面積を増やすことと、賦形剤と混ぜることで、空気中の水分との反応を促進してしまう可能性があります。
とはいえ、川崎病の解熱後のアスピリン量は少なく、賦形せずには均一に撒くことが難しいケースもあります。
また、最終的な粉の量が少なすぎると、服用時に分包紙に残る粉薬の影響も気になるところです。
可能であれば賦形せずに調剤したいところではありますが、2度巻きによる賦形は検討しても良いかもしれません。
小児の川崎病にアスピリンを調剤する場合は、酢酸臭を極力抑えつつ、飲みにくさが出ないように特に注意をしたいと考えています。
また、出来るだけ加水分解が進まないように、乾燥剤を入れた袋などに入れて渡すようにしています。
川崎病の適応があるアスピリン製剤【代替薬は?】
川崎病への処方として、病院の採用薬との兼ね合いか、バイアスピリン錠の粉砕を見かけることが多いです。
バイアスピリン以外のアスピリン製剤にも使用できるものがありますが、一部適応のないものもあります。
調べてみたところ、以下の数種類のみ川崎病の適応がありませんでした。
- 「純生」アスピリン
- アスピリン「ケンエー」
- バファリンA330(と一般名が同一の製剤)
※私の調べなので、ご自身での確認もしていただきたいと思います。
アスピリン単剤の医薬品で、川崎病の適応が無いのは、「純生」と「ケンエー」だけです。
アスピリン単剤に加えて、アスピリン・ダイアルミネート製剤のバファリンA81には川崎病の適応がありますが、バファリンA330には適応がありません。
その他の製剤は川崎病の適応があります。
川崎病に適応のあるアスピリンの粉末の中で100gの小包装があるのはアスピリン「ヨシダ」のみで、他は500g包装です。
(適応のない「純生」アスピリンは25g包装があります)
解熱後の川崎病はアスピリン使用量が少なく、粉薬は期限切れで廃棄となることが多い印象があります。
出来るだけ小包装に抑えたいところですね。
川崎病について【代替薬としてフルルビプロフェンも】
川崎病の原因はまだ明らかとは言えず、自己免疫疾患説・感染症説などがあります。
4~5歳以下の子どもに多い病気ですが、成人にもまれに起こりえます。
世界中で報告はされていますが、日本も含めたアジア東部に多いとされます。
診断の基準はいくつかありますが、発熱が5日以上続いた場合(もう少し少ない日数の場合もあり)に疑われます。
「子どもの熱が数日続いたら受診」のように注意喚起される理由の一つです。
その他、発疹、目の充血、舌が赤くなる、BCGの痕が赤くなることもあります。
川崎病で注意すべきなのは、冠動脈瘤が出来る可能性があることです。
国立成育医療研究センターによると、約3%になんらかの瘤ができるようです。
冠動脈瘤のリスクを最小限にするために、薬局などでも適切な受診勧奨が望まれます。
川崎病急性期の治療としては、免疫グロブリン投与、アスピリンを30~50㎎/kg/日(解熱後は3~5㎎/kg/日と10分の1に減る)などがあり、入院治療になります。
なお、アスピリンは水ぼうそうやインフルエンザに伴う、ライ症候群の発症確率を上げる可能性も指摘されています。
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低用量アスピリンでライ症候群が増加するというエビデンスは見つけられませんでしたが、自己判断でアスピリンを中止することにも推奨出来ませんので、主治医に確認することが理想と考えます。
なお、アスピリンにより肝障害が強く出る場合などは、代替薬としてフルルビプロフェン(フロベン顆粒など)を変わりに使うこともあるようです。
薬局で働いていても、川崎病の処方を受けることはそこまで多くなく、あまり勉強する機会もないかもしれません。
今回まとめたのは非常に簡単な内容ではありますが、詳しく学ぶきっかけになればと思います。