けいれん発作が5分以上続くと自然収束しにくいため、早期に治療をはじめたほうが良いとされています。
海外では自宅でも使用できるエビデンスある選択肢がいくつかありましたが、日本においては明確なエビデンスのある自宅で可能な治療方法はありませんでした。
※エビデンスが少ないながらもダイアップ坐剤などが使われることがあります。
「ブコラム口腔用液」によって、日本においても医療機関以外でのミダゾラムの頬粘膜投与が可能になりました。
ブコラム口腔用液は「ミダゾラム」を頬粘膜から吸収させる製剤です。
同様の方法は30カ国以上で承認され、イギリスのガイドラインでは病院前治療及び病院初期治療に位置づけられています。
ちなみに、ブコラムの名前の由来は、Buccal(頬粘膜投与)×Midazolam(ミダゾラム:成分名)=「BUCCOLAM」とインタビューフォームに記載があります。
ブコラムの家庭での使い方
ブコラム口腔用液の特徴として、「てんかん重積状態」に「自宅で速やかに投与可能」な「エビデンスのある」製剤、ということが挙げられます。
現実としては病院で使用されるケースもとても多いと思いますが、医療機関に行かなくても使えることがポイントです。
しかし、ブコラム口腔用液は、現時点で日本初の使い方や注意点のある薬です。
処方された場合には、家庭で問題なく使えるようにご家族の方に理解してもらうことが重要です。
また、使用の目安を事前に医師と相談しておいてください。
ブコラム口腔用液は「針のない注射」のような形をしていますが、注入しやすいような形をしているだけで注射ではありませんし、針も必要ありません。
薬剤は最初から入っているので、片側の歯ぐきと頬の間に注入し、「頬粘膜から吸収する」ことで効果が得られます。
- 両側に半分ずつと指示された場合は、その指示に従ってください。
- すぐに飲み込まないように。その場合、初回通過効果により十分な効果が得られない可能性が高いです。
- 口の中に嘔吐物があったり、よだれが多かったりする場合は、事前に拭き取るようにしてください。
※容器に取り扱い説明書がついているので、それを確認すると良いでしょう。
ブコラム口腔用液には4種類あり、年齢に応じて使用する量が異なります。
※ミダゾラムの成分量(mg)は製品名のとおり
※修正在胎(在胎週数+出生後週数)52週:目安としては生後3ヶ月ごろ(早産の場合は生後3ヶ月でも使えません。)
※18歳以上の患者に対する有効性及び安全性は確立していません。
使用後は救急搬送するのが原則ですが、投与後の対応についても、医師と事前に決めておきましょう。
なお、救急受診の際に使用済みのシリンジを持っていくと、速やかに状況が確認できます。
原則受診が必要ないと言われている場合でも、以下のようなケースでは、速やかに受診をしましょう。
- ブコラムを投与しても10分以内に発作が治まらない
- シリンジ内の液剤を全量投与できなかった(液剤をこぼしてしまったり、プランジャーを最後まで押せないなど)
- ブコラム投与後、以下のような症状・兆候がみられた場合
◆ 呼吸がより遅い、浅いまたは止まった、唇が青い
◆ 胸が痛いまたは苦しい、首から肩・左腕にかけて広がる痛み
◆意識がもうろうとしている、意識がない
◆ひどい眠気や疲労、ぐったりしている、つねっても反応しない
◆ めまい、脈が弱い
◆ 気分が悪い、おう吐
◆ 話す内容や行動がおかしい、興奮状態
使用後に症状が再発した場合であっても、自宅での自己判断での追加投与は行わず、すぐに受診してください。
ブコラムの国内第Ⅲ相試験における奏効(目に見える発作がブコラムの単回投与後 10 分以内に消失し、かつ、目に見える発作がブコラムの単回投与後 30 分間認められない)率は80%と報告されています。
ブコラムの副作用・相互作用
ブコラムの副作用としては、下痢、嘔吐、吐き気、鎮静、傾眠、呼吸抑制がそれぞれ25例中1例ずつ国内第Ⅲ相試験成績において報告されています。
中でも呼吸抑制については「重大な副作用」として設定されています。
自宅で使用することがある場合に、呼吸が遅い、浅い、止まる、唇が青くなるなどの症状があった場合は、すぐに病院に行ってください。
それ以外にも、激越、不随意運動(強直性/間代性痙攣、筋振戦を含む)、運動亢進、敵意、激しい怒り、攻撃性、発作性興奮、暴行などの逆説反応が起こりやすいとの報告があります。
そもそも、ブコラム使用後は原則として速やかに受診することが推奨されているため、副作用などの確認も病院でされることが多いと思います。
2020年12月時点で、併用禁忌には以下の医薬品が該当します。
これらの医薬品は、CYP3A4という薬物代謝酵素を強く阻害することで、ブコラムの血中濃度を過度に上昇させて、副作用が起こりやすくなるなるおそれがあります。
併用注薬は多数ありますが、18歳未満が併用することの多そうなものとしては以下のようなものがあります。
ブコラムを処方する医師は併用薬をしっかりと確認の上処方されるはずです。
一方で、ブコラムが処方されていることを把握していない医師・薬剤師には見逃される可能性があります。
お薬手帳を確認したとしても、数ページ前に貼られている薬には気づきにくいです、必ず併用薬として報告していただきたいと思います。
ブコラムの保管上の注意と使用期限
ブコラム口腔用液を自宅で保管する場合は以下の点にご注意ください。
- シリンジの外側のプラスチックチューブから出さない
- プラスチックチューブのふた側を上向きに立てて保管(内側のシリンジの赤いキャップが下になる)
- 常温で保存(冷所保存での安定性は未確認)
これらを守ることで、期限内の安定性が保証されます。
ちなみに、医薬品管理における「常温は15~25℃」で、紛らわしい「室温は1~30℃」です。
また、使用期限は理論上最長のケースでも2年弱ですので、定期的な期限の確認もしておきましょう。
※2.5mgは18ヶ月、その他は24ヶ月の有効期間がありますが、流通までに時間が必要なので、実質手元に来てから1年程度かもしれません。
参考:小児けいれん重積治療ガイドライン2017、ブコラム口腔用液インタビューフォームおよび指導せん
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