点鼻ステロイドの子どもへの使用について、私見をまとめています。
「ステロイド」ということだけで、使用に抵抗感を感じられることもありますが、適切に使っている限り、飲み薬のステロイドのような全身性の副作用が出ることはまずありません。
ただし、大量・長期間の使用の際には、飲み薬のステロイドほどではありませんが、注意も必要になります。
適切に使用することが前提ではありますが、点鼻ステロイドの使用を否定するつもりはありません。
鼻症状がひどい場合などは、むしろ積極的に使用するべきだと考えています。
点鼻ステロイドの子どもへの使用について
子どものアレルギーは昔と比べて増加しており、花粉症の子どもを見かけることも以前に比べて増えています。
アレルギーが増えている理由に関しては諸説ありますが、大切なのは「今出ているアレルギーにどう対処するか」です。
効果面
アレルギー症状を抑える薬としては、子どもにも抗ヒスタミン薬が広く使われています。
比較的眠気などの副作用を気にしなくても良い第2世代の抗ヒスタミン薬にも、生後6か月ごろから使える飲み薬もあります。
鼻水が出るような風邪症状のときに、アレルギーを抑える抗ヒスタミン薬が処方されることがあります。「鼻水が出て困る」という患者さんや患児の保護者の方からの訴えに応えるために処方されているのだと思いますが、十分な効果があるんでしょうか?[…]
しかし、飲み薬だけでは鼻症状が改善しない場合などを中心に、ステロイドの点鼻薬も使われています。
12歳以上の季節性アレルギー鼻炎の症状を抑えるには、飲み薬の抗ヒスタミン薬よりもステロイドの点鼻の方が効果的とのデータも出ています。
参考:Pharmacologic Treatment of Seasonal Allergic Rhinitis: Synopsis of Guidance From the 2017 Joint Task Force on Practice Parameters.
私もアレルギーがありますが、ここ数年は基本的に点鼻ステロイドだけである程度症状は抑えられています。
安全面
点鼻ステロイドを使用するにあたり「漠然としたステロイドに対する恐怖感」を感じている方もいます。
まったく気にしなくても良いとまでは言えませんが、点鼻ステロイドに関しては大量・長期の使用でなければ全身性の副作用が出ることはまずないでしょう。
ぜんそくなどで使用する吸入ステロイドも、成長に関する副作用などが問題視されることがありますが、ぜんそく治療と天秤にかけるものではないと考えています。
頻度の限りなく低いものまで含めると、薬の副作用の種類は少なくありません。そのため、医師や薬剤師は、軽度だが可能性がそれなりにあるか、重大な副作用のみを説明する傾向が高い印象があります。つまり、副作用の説明は個人の判断に依存し[…]
点鼻ステロイドで全身性の副作用が出にくいと言える理由の一つとして、点鼻ステロイドは経口ステロイドと比較して、ステロイドの成分量が明らかに少ないです。
さらに、点鼻ステロイドの多くは、バイオアベイラビリティ(以下BA)が低いものが多く、子ども使われることの多いアラミスト・ナゾネックス・小児用フルナーゼはどれもBAが1%未満です。
MEMO:バイオアベイラビリティとは
和訳:生物学的利用能(せいぶつがくてきりようのう)
薬が全身循環に届く割合を表す。
BAが50%なら、薬の半分が全身に循環されるということ。
点鼻薬に関して考えるのであれば、BAが低いということは=鼻には効果があるが、全身への影響は少ないということ
先程紹介した、Safety of intranasal corticosteroids in acute rhinosinusitis.では、急性副鼻腔炎における安全性について、ナゾネックスやアラミストの全身性の副作用はプラセボと同様で、安全に使えると結論づけています。
また、Safety update regarding intranasal corticosteroids for the treatment of allergic rhinitis.でも、BAの低い点鼻ステロイドは長期使用でも安全との結論です。
それぞれの点鼻薬で成分や量が違うので、BAだけで比較できるものではないかもしれませんが、安全性の一つの参考にはなります。
BAが少々高かったとしても、点鼻ステロイドと経口ステロイドとの量の差は大きいので、短期間の使用で安全性に大きな差が出るわけではないと思います。
同じデータでも人によって捉え方は変わります。
これらのデータをどのように考えるかというところですが、点鼻ステロイドが広く使用されている現状を考えれば、効果が期待でき、安全性も高いと判断されていることが多いと思います。
私も基本的に同意見ですが、不要に長く続けないように、定期的に診察し判断してもらうことが大切だと考えます。
医療用点鼻ステロイドの簡易比較表
点鼻ステロイドにもそれぞれ特徴があるので、表で簡易的に比較します。
フルナーゼ | アラミスト | ナゾネックス | ベクロメタゾン点鼻液 | リノコート | エリザス | |
---|---|---|---|---|---|---|
液体/粉 | 液体 | 液体 | 液体 | 液体 | 粉 | 粉 |
適応年齢 | 5歳~ | 2歳~ | 3歳~ | 6歳~ | 6歳~ | 成人のみ |
用法 | 1日2回 1回1噴霧 | 1日1回 1回1~2噴霧 | 1日1回 1回1~2噴霧 | 1日2~4回 1回1噴霧 | 1日2回 | 1日1回 |
BA | 1%未満 | 0.5% | 0.2%未満 | 44% | 44%(参考:ベクロメタゾン点鼻液) | 14% |
特徴 | 小児専用規格あり | 2歳から使える | BAが最も低い | 成人用市販薬あり | 子どもにも使える粉タイプ | 添加物が乳糖のみ |
※BAについては、各点鼻薬のインタビューフォーム及び、Safety of intranasal corticosteroids in acute rhinosinusitis.を参考。
※リノコート点鼻については該当資料ないが、同成分のベクロメタゾン点鼻液を参考にした
液体タイプの点鼻ステロイドは使用感(刺激感・匂い・液だれなど)が気になるという意見を聞くことがあり、嫌がるお子さんもいます。
粉タイプの点鼻ステロイドは使用感は比較的良いですし、粉が鼻粘膜を覆うことで、鼻粘膜とアレルギー原因物質とが触れにくくする効果もあると言われています。
しかし、エリザスは子どもへの適応がなく、リノコートも明確な子ども量が設定されていません。
そのためなのか、粉タイプの点鼻ステロイドが子どもに使用されているのを見るのは稀です。
BAの低さを検討するなら、ベクロメタゾン以外の点鼻液が良いかもしれません。
今回は点鼻ステロイドの子どもへの使用について考えてきましたが、点鼻薬の成分はステロイドだけではなく、血管収縮作用のある点鼻薬もあります。
血管収縮作用のある点鼻薬の子どもへの使用に関してはまた別の注意点が必要です。
どの点鼻薬を使うにしても、保護者の方がうまく使えているのか確認するか、点鼻してあげることが良いかと思います。