子どもの受診理由で最も多いのは、「風邪」を疑うような状況での受診でしょう。
しかし、子どもの風邪に限らず、風邪についての誤解がある方は少なくありません。
たびたび耳にするものとしては、次のようなものが挙げられますが、いずれも否定されています。
- 風邪だから抗生物質が必要
- 風邪薬で風邪が治る
- 風邪なのに咳鼻が1週間続くのはおかしい
風邪についての基礎知識をCDC(アメリカ疾病予防管理センター)のホームページを参考にまとめたいと思います。
風邪についての基礎知識:CDCを参考に
原因・リスク要因
風邪の原因となるウイルスは200以上あり、中でもライノウイルスが最も一般的です。
※「新型」ではないコロナウイルスも風邪の原因になります。
空気や接触を通じて感染します。
リスクを高めるのは次のような要因です。
- 風邪の人との密接な接触
- 季節(年中だが、特に秋から冬にかけて)
- 年齢(子どものほうが大人よりも多い)
風邪の症状と持続期間
風邪の主な症状としては、くしゃみ、鼻詰まり、鼻水、喉の痛み、咳、後鼻漏(鼻水が喉の方にたれる)、涙目、発熱などが挙げられます。
もちろん、全ての症状が出るわけではありません。
通常は2~3日程度でピークに達します。
風邪=発熱という印象をお持ちの方もおられますが、風邪で発熱することは必ずしも多くありません。
風邪のウイルスが鼻に感染すると、鼻水が出てウイルスを排出しようとします。
数日すると鼻水の色が黄色や緑色に変わることがありますが、これは正常な反応であり、これをもって抗生物質が必要だというわけでへありません。
風邪の症状が以下の期間続くこともありますが、時間が経つにつれ改善していきます。
- 喉の痛み:8日間
- 頭痛:9~10日
- 鼻水、咳:14日以上
鼻水が黄色いので受診し抗生物質処方などもよく耳にします(中には必要なケースもあるでしょう)。
受診の目安
次の場合は受診してください。
ただし、全てを網羅しているわけではないので、症状が重たかったり心配な場合は受診してください。
なお、3か月未満のお子さんに38度以上の発熱がある場合は速やかに受診してください。
- 呼吸困難や呼吸が早い
- 4日以上続く熱
- 症状が改善せずに10日以上続く
- 咳や熱が改善した後に、再発や悪化する
- 慢性症状の悪化
風邪とインフルエンザは似た症状を示すことがあり、症状のみで見分けるのは困難な場合があります。
一般にインフルエンザは風邪よりも症状が強く、深刻な合併症を引き起こす可能性があります。
風邪の場合、鼻水や鼻詰まりが出やすく、肺炎・細菌感染・入院などの深刻な問題には繋がりにくいです。
風邪に対する特別な治療薬はありません。
抗生物質は風邪には効果がなく、むしろ副作用(発疹、耐性菌感染、下痢など)の原因となることがあります。
自宅で風邪の症状を緩和する方法
- 十分な休息
- 十分な水分補給
- 清潔な加湿器の使用
- 生理食塩水の鼻うがい・点鼻※幼児の場合は鼻水吸引
- 水蒸気吸入
- トローチ※4歳未満には与えない
- はちみつ※1歳未満は禁止
加湿は重要ですが、正しいメンテナンスがされず清潔でなければ、逆効果になることも考えられます。
スチーム式、ハイブリット式などいろいろな種類があるので、特徴を考えて購入しましょう。
鼻症状があれば、生理食塩水を使った鼻うがいも良いでしょう。
私もしていますし、4歳から出来るものや、1歳から出来る製品もあります。
喉が痛ければトローチも良さそうです。
個人的には咳止め成分が入っているものは選びません。
はちみつは咳止め効果が期待できますが、1歳未満は乳児ボツリヌス症の懸念があるため与えてはいけません。
子どもの風邪に市販薬
子どもに市販薬を与えるのは注意してください。
解熱鎮痛薬
6か月未満:アセトアミノフェンのみ
6か月以上:アセトアミノフェンまたはイブプロフェン(注:日本では子ども用市販薬はほぼ全てアセトアミノフェンです)
その他の解熱鎮痛薬にはライ症候群などの注意が必要です。
咳止め・風邪薬
4歳未満:医師から指示されない限り使用しないでください。深刻な副作用を引き起こす可能性があります。
4歳以上:主治医と話し合ってください。
日本では子ども用風邪薬の市販薬がそれなりに売れていますが、海外ではほとんど使用されていません。
少なくとも、子ども用の市販の風邪薬と小児科医が風邪に処方する薬には明らかに違いがあります。
当然ですが、大人用の風邪薬を子どもに与えてはいけません。
大人には問題なく使えても子どもにはリスクが高い薬はたくさんありますし、風邪薬も例外ではありません。
風邪の予防
風邪の予防のためには常日頃の健康維持が重要です。
周りの人を健康に保つことも重要です。
- 手をきれいにする
- 風邪などの上気道感染症の人とは密接を避ける
- 咳やくしゃみをする時には口と鼻を覆う
- 洗っていない手で目・鼻・口に触れない
- タバコを吸わず、受動喫煙も避ける
ここまではCDCに記載されている内容から、特に知っておいていただきたいことをまとめました。
わかるように区別をしているつもりですが、個人の意見も含まれているのでご注意ください。
子どもの風邪について:受診を軽視するのはおすすめ出来ない
少し上に風邪の予防についての記載がありましたが、小さい子には徹底出来ないものも多いです。
当然、幼児が集まる幼稚園・保育園で風邪予防を徹底することは現実的には不可能でしょう。
それを裏付けるかのように、家にいる子どもよりも保育園・幼稚園に行っている子どものほうが呼吸器感染症が多いという報告もあります。
参考:Frequency and Severity of Infections in Day Care: Three-Year Follow-Up
人が多ければ多いほど感染症にかかっている人がいる確率は増えますし、感染症にかかっている人と接していると自身も感染症にかかりやすくなるのは理解しやすいと思います。
「保育園に行きだしてからずっと風邪を引いている」という話は調剤していてもよく耳にしますが、保育園・幼稚園の性質上仕方のないことだと考えます。
特に小さな子どもは色々なものを口にしたり、たくさん触れ合ったりとお互いに感染させやすいです。
一部の感染症の場合などは別としても、風邪予防のために他の子どもとのふれあいを制限させるのも、子どもの成長にとって良いことだとは思えません。
集団生活において大切なのは、感染症を疑う場合は休ませること、重症化に繋がりやすい感染症対策として予防接種を受けることなどでしょう。
子どもの体調不良に関しては、やはり低年齢であるほど受診が重要だと考えています。
しかし、それを踏まえても、新型コロナウイルス流行前は少々受診が多すぎたようにも感じます。
風邪を治す薬はありませんし、咳・鼻・下痢・嘔吐は薬を使ってまで止めないほうが良いケースも多いです。
もちろん薬を使うことで短期的な改善は見られますし、それによって子ども自身が楽になることもあるでしょう。
しかし、薬によって根本的な解決になることは稀です。
受診先の病院や薬局で感染症の人と接して、感染症にかかる可能性もゼロではありません。
子ども用スペースにあるおもちゃや絵本も、誰かが使うたびに消毒をしない限りは感染の原因になりえます。
それでも受診を軽視してはいけないと感じるのは、特別な治療が必要かどうかを診断してもらうことが重要だからです。
なお、風邪だと確定する根拠はあまり明確ではないので、確定診断はほぼ出来ません。
風邪の確定診断をするためには、その他の様々な病気を除外するための様々な検査が必要になりますが、そのために毎回血液検査などなどをする医師が良医だとは個人的には思えません。
※もちろん、疑われる病気次第では色々検査をしたほうが良いです。
ほとんどのケースでは「現時点では特別な治療が必要な病気の可能性は低いため、おそらく風邪だと思います。」というニュアンスを含んでいると思います。
子どもを受診させるかどうかの判断は保護者がされることが多いでしょうから、保護者の性格によって受診の頻度も変わる印象があります。
心配しすぎ、その反対、などの性格の自覚がある人は、ほんの少しだけその点も考慮すると良いような気がします。
大丈夫そうな時に受診を避けることを否定するつもりはありませんし、そもそも小さい子の「念のため受診」は多いように感じていました。
しかし、過度な受診控えは重症例を見逃す原因になりかねませんし、CDCの文章にもありましたが、私としても「念のため子ども用風邪市販薬」は推奨出来ません。
心配であれば受診はする、しかし心配する基準をほんの少しだけ上げていくことがこれから重要になっていくのではないかと感じています。
少なくとも、慢性疾患に関わる受診控えだけはないようにお願いします。