海外旅行に行く際にはいろいろな事前準備が必要ですが、定期的に薬を使用している場合は「薬」の準備も必要です。
そこで問題になるのは、「その薬を旅先に持っていくことが出来るかどうか」です。
日常的に使用している薬でも、必ずしも海外旅行に持っていけるとは限りません。
また、飛行機への持ち込みが出来るかどうかも重要です。
以下の3点を中心に考えていきたいと思います。
- 日本から持ち出せるのか
- その国に持ち込めるのか
- 飛行機に持ち込みが出来るのか
日本からの薬の持ち出し制限
日本で処方されている薬の中にも、日本から持ち出すことが禁じられている薬もあります。
その薬を持って海外に行くことはできませんので、まずはここから確認しておきましょう。
絶対に持ち出せない薬類
個人の治療を目的としていても、日本から持ち出せない薬は以下の通りです。
なお、大麻は日本では医薬品として認められていませんが、類似のものとして記載しておきます。
- ヘロイン
- アヘン
- 大麻
- 覚せい剤
覚せい剤原料→2020年に制度変更- メサドン類
条件付きで持ち出せる薬【覚せい剤原料・医療用麻薬|サイレースなどは注意】
手続きをすれば持ち出せる薬については、「覚せい剤原料」、「医療用麻薬」、「向精神薬の大半」が該当します。
覚せい剤原料【エフピー・ビバンセ】は2020年に制度変更あり
パーキンソン病の治療に使われることのある「セレギリン(エフピー)」や、AD/HDの治療に今後処方が増えるであろう「ビバンセ」が該当します。
注意欠陥/多動性障害(AD/HD)の治療薬として発売予定の【ビバンセカプセル】について調べてみました。既存のAD/HD治療薬との比較もしています。[adcode]ビバンセカプセルについて【大人不可、海外旅行へ持参は可能に[…]
以前は「絶対に持ち出せない薬」でしたが、2020年4月に制度が変わりました。
海外へ持ち出すには、最寄りの厚生局の許可が必要になります。
医療用麻薬
覚せい剤原料同様、医療用麻薬の日本からの持ち出しも、事前に地方厚生局で許可をもらう必要があります。
許可には時間がかかるので、予定が決まり次第速やかに連絡するようにしましょう。
この許可は、日本から持ち出す/日本に持ち込むことに対する許可であり、旅行先に持ち込む許可では無い点には注意が必要です。
向精神薬【アメリカにサイレース持ち込みは注意】
向精神薬には、睡眠薬や抗不安薬の多くが該当し、てんかんなどの別の病気で使われることもあります。
その他にも、「肩こりでの使用」や「急に血圧が上がった時に頓用」などの例もあり、病名だけで判断することは難しいかもしれないので、念のため確認しておくことをおすすめします。
使用者が向精神薬を治療目的で日本から持ち出す/日本に持ち込むことは、条件付きですが、事前の申請など無くても可能です。
ただし、持ち出す総量が一定量を超える場合は、証明書類が必要になります。
持ち出せる総量に関しては、近畿厚生局のホームページなどが参考になります。
使用されている方が多そうなエチゾラムの例をあげると、持ち出せるのは90mgまでとなっています。
証明書類は、処方箋のコピーや医師の証明書などが該当しますが、海外でも使うためには英文で記載するなどの配慮が必要です。
日本と海外では規制区分が異なることがあります。
日本では向精神薬の睡眠薬として使われているサイレース(フルニトラゼパム)はアメリカでは麻薬扱いになり、無断での持ち込みは刑罰の対象になるのでご注意下さい。
海外への薬の持ち込み制限
続いて海外への薬の持ち込む場合、国ごとにルールは異なります。
ネット検索で見つかる場合もありますが、情報が誤っていることや古いこともあります。
その国の大使館などのホームページを参照するようにしましょう。
英語が苦手な方でも、「国名+drug」などでも検索できる場合もありますし、グーグル翻訳などの翻訳ツールなども利用すれば、だいたいの内容は理解できそうです。
アメリカの場合【2020年時点】
一つの例として、アメリカの情報を見てみましょう。
在日米国大使館・領事館のホームページによると、常習性のある薬(例:咳止め薬、安定剤、鎮静剤、睡眠薬、抗うつ剤、興奮剤)を持ち込む場合は以下のようにしてくださいと書かれています。
それらが日本語で書かれている場合、英文に翻訳したものを用意(翻訳した人のサインが必要)。
●薬や書類などをまとめて税関に申告。
●治療を受けている本人が必要な量のみ。
●元の容器に入った状態で持ち込む。
常習性のある薬とは→規制物質法
なお、「常習性のある薬」とは、麻薬取締局(DEA)のホームページによると、規制物質法のスケジュールII、III、IV、Vにリストされた薬が該当するようです。
例えば以下のような薬が該当します(一部抜粋)。
- ほとんどのベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬
- 酒石酸ゾルピデム(マイスリーなど)
- 少量のコデインが入った鎮咳剤
- プレガバリン(リリカなど)
睡眠薬や抗不安薬を使用している方は少なくありませんので、必ずチェックをしておきましょう。
必要な量のみ→多少の余裕はOK
また、「必要な量のみ」とありますが、どれぐらいの日数なら良いのでしょうか。
FDA(米国食品医薬品局)のホームページには90日以内と書かれています。
規制の対象になる薬については別途注意が必要ですし。過剰に持ち込むと、無駄に疑われそうです。
90日以内というルールの範囲で、多少の余裕を持つ程度に抑えましょう。
薬剤携行証明書の持参が安心
規制の対象外の薬を海外に薬を持ち出す場合は絶対に必須というわけではありませんが「英語で書かれた薬剤携行証明書」があれば、余計なトラブルを減らせるかもしれません。
処方医に依頼をするのがベストですが、書いてもらえない場合は、日本旅行医学会の専門医にお願いするか、英文の薬剤携行証明書を作成してもらえるところにお願いできます。
海外旅行に薬を持っていく時の注意点【簡易まとめ】
- 日本から持ち出せるかを確認
- 旅行先に持ち込めるかを確認
- 制限のある薬なら税関で自己申告
- 必要量+少しの余裕分だけ持参
- 規制がない薬でも英文の薬剤携行証明書があると安心
航空会社により注意点は異なりますが、今回はANAの例で見てみます。
航空会社によりルールが異なることがあります。また、テロなどの対応でルールが厳しくなることもありえますのでご注意下さい。
必ず事前にご利用の航空会社にご確認下さい。
飛行機の持ち込みに注意が必要な医薬品・医療機器
海外旅行となると、飛行機を利用されることが多いと思います。
医薬品・医療機器の機内持ち込みについては航空会社によりルールが異なりますので、調べた時点でのANAの例で見てみます。
必ず事前にご利用の航空会社にご確認下さい。
医薬品や治療に必要な医療機器類については、他の物品よりも規制は緩いです。
多くのものは、そのままでも機内持ち込みが出来ますし、預かり荷物に入れておくこともできます。
トラブル無く保安検査をするためには、持ち込むことを伝えたり、薬剤携行証明書を持参することも検討しましょう。
※国内の移動で薬剤携行証明書が必要になるケースは少ない気がします。
インスリンやエピペンなどの自己注射類
インスリンなどの注射器を必要とする薬に関しては、国内の航空会社では問題なく持ち込めます。
血糖測定器や針なども同様です。
持ち歩かなければ生命に関わる薬でもあるので当然の配慮とも言えますが、危険物であることに変わりはありません。
保安検査場での自己申告は必要ですし、必要な薬であることを証明するもの(医師の証明書など)があると、手間が少なく済みそうです。
国によって注射剤の見た目も異なるので、税関や保安検査場では質問されると考えておきましょう。
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高圧ガスや引火性の液体を使用した薬【一部吸入薬や外用薬など】
一部スプレー缶などは機内持ち込みも預かり荷物にも制限がかかることがありますが、医薬品類は基本的に持ち込めます。
しかし、量の制限があり、日用品などとも合算した量になる点には気をつけておきましょう。
ANAでは化粧品類・医薬品・日用品などのスプレー類と合わせて、1容器0.5kgまたは0.5リットル以下のものは1人あたり2kgまたは2リットルまで機内持ち込み・預け荷物ともに可能です。
また、スプレーは中身がもれないように、噴射ノズルなどがキャップ類などで保護されているものに限ります。
保安検査のため、一箇所にまとめておくと楽かもしれません。
一部の医療機器
医療機器類も基本的に持ち込めますが、バッテリーの種類によっては制限される場合もあります。
乾電池式のものは基本的に大丈夫ですが、リチウムイオン電池などを使っているものは問い合わせておきましょう。
吸入器などを飛行機内で使用したい場合は、事前に相談するようにしましょう。
粉薬の機内持ち込み制限【アメリカに行く場合】
アメリカの運輸保管局からの通達で、アメリカに行く際は350mL(12オンス:約340g)以上の粉類は機内持ち込みが出来ないようです。
粉薬も同様に規制されるようです。
どこからが粉扱いになるのかはわかりませんが、子どもの場合でもモビコールなどでは1日最大28gほど飲むことありえますので、量を気にしたほうが良いかも知れません。
預かり荷物に医薬品を入れる場合の注意
預かり荷物については以下の2点について気をつけておくと良いでしょう。
- 客室ほどの温度管理はされていない
- ロストバゲージ対策
預かり荷物に医薬品を入れる場合、必要に応じて保冷バックと保冷剤を持参するなどの対応を取りましょう。
海外に保冷剤を持ち出す場合などは保冷が必要な薬であることの証明書などがあったほうが良さそうです。
また、滅多にないと思いますが、預けたけど手元に戻ってこないケースもありますので、少ない量であれば手荷物として持ち入ったほうが良いかもしれません。
短期間無いだけで生命に関わる薬の場合は特に注意が必要でしょう。
感染症などで体調が悪い場合、医師の診断書が必要なこともあります
感染症やその他の体調不良時に飛行機に乗ることについても注意を忘れずに。
ANAのホームページには以下のように書かれています。
おたふくかぜ、風疹など学校保健安全法で出席停止が定められている感染症のうち、出席停止期間の基準を過ぎていないお客様については航空機搭乗に適しておりません。ただし、医師により感染の恐れがないと認められた場合にはこの限りではありませんので、主治医にご確認をお願いいたします。場合によっては診断書をご用意していただくこともございます。
また、以下の場合はANA所定の診断書の提出が必要と書かれています。
医療用酸素ボンベを使用される場合
酸素濃縮器(POC)、人工呼吸器を使用される場合
ストレッチャーや保育器を使用される場合
その他病状や体調が急に変化する恐れがある場合
病気、けがの治療や最近受けた手術などが航空旅行によりおからだに影響を及ぼすと思われる場合
出産予定日を含め28日以内の妊婦のかた
その他、ANAが必要と判断した場合
なお、診断書は搭乗日を含め14日以内に医師により発行されたものが有効とされます。
体調不良で飛行機に乗った結果、急激な体調変化などが起きてしまったら、自身の身の安全にも関わりますし、多くの乗客に迷惑をかけることになってしまいます。
学校保健安全法で出席停止期間が定められているものは、他者への感染を防ぐためでもあります。
そのような感染症にかかっていながら飛行機に乗るのは、感染症を拡げるリスクも高いと考えておきましょう。
学校保健安全法で出席停止期間が定められている疾患はたくさんありますので、下記の記事の最後の表を参考にしてください。
お子さんに熱が出たり、咳が続いたりした時に、「何の病気だろう?受診したほうが良いのだろうか?」と心配になることは多いですよね。また、保育園や幼稚園、そして学校に行っていいかどうかも迷うと思います。 子どもが[…]
なお、飛行機の中は感染症が拡がりやすい環境のように感じてしまいそうですが、意外と感染症は拡がらないとの報告もあります。
こちらの報告(pubmedのページに飛びます)によると、飛沫感染をする感染症については、感染した乗客の近くに乗っていない人への感染の可能性は低そうです。
あくまで飛沫感染する感染症について検討したものなので、はしかなどの空気感染する感染症であればもっと感染が広がる可能性も否定できません。
しかし、調べてみると、飛行機の換気システムはかなり高性能なようで、意外と感染しにくい環境ではありそうです。
近くの席の方への感染の可能性は高いので、キャンセルをすることも検討していただければと思います。
飛行機に乗る時の薬・病気への注意について
- 一部の医薬品・医療機器は、飛行機への持ち込み制限がある
- 預かり荷物は制限が少ないが、温度管理が必要な薬には注意
- ロストバゲージの可能性もお忘れなく
- 感染症などで診断書が必要な場合もある
日本だったら日本語で簡単に説明が出来ますし、パッケージなどから、医薬品であることは容易に確認出来ます。
海外に持ち出す場合は、航空会社へ持ち込めるのかの確認も念の為した上で、英文の薬剤携行証明書を持っていると安心ですね。
実際は、ほとんど問題なく医薬品を海外に持ち込めることが多いのかも知れません。
そのような体験談も多いですし、周りの海外旅行経験者も同じように言っています。
しかし、海外でトラブルになった場合、しかも違法薬物と疑われた場合、想像したくないほど大変な事になると思います。
滅多に無いことかもしれませんが、だからこそ、しっかりと備えてもらえればと思います。
海外のルールをしっかりと確認し、トラブルのない楽しい旅行にしましょう。
ネットの記事(当記事含む)も、最新であることの保証は一切ありません。
自身でその国の大使館などに電話で相談するのが間違いないでしょう。
飛行機移動でも酔ってしまう場合、酔い止めを使うケースはこちらを参考に。
車での移動を主とした内容ですが、役立つこともあると思います。
乗りもの酔い(動揺病)は平衡感覚の乱れが原因で起こると言われ、動いたり止まったり、早くなったり遅くなったり、上下左右に動いたり、このような刺激を受けることで酔ってしまいます。乗りもの酔いをすると、気分が悪くて吐いたり、顔面蒼白になっ[…]