イナビル吸入懸濁用160mgセットにの既存のイナビル吸入粉末剤との違いや、多剤と比較した時のメリット・デメリットについて考えています。
まだ実際に使用されている例が少ないため、推測しか出来ていない内容もあることはご了承ください。
イナビル全般について【はじめに】
イナビル吸入粉末剤20mgは2010年に発売されたインフルエンザの治療薬で、1回(その場で4吸入)で治療が終わる簡便性から、発売したシーズンにも多く使われました。
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2019年には新たな剤形として、イナビル吸入懸濁用160mgセットが発売されています。
名前が似ているので取り違えに注意が必要ですね。
イナビル吸入懸濁用は160㎎の一規格しかなく、大人も子どもも同じ量です。
後述しますが、イナビルは日本で作られ、日本でしか使われていないインフルエンザ治療薬というのも特徴の一つです。
イナビル吸入懸濁用のメリット・デメリット
イナビル吸入懸濁用は、ネブライザーという吸入器を使って吸入する薬です。
イナビル吸入懸濁用のメリットとしては、一回だけの治療で、痛みなく、ほぼ確実に適切な量を使えることです。
確実に使えるインフルエンザ治療薬としては、ラピアクタという点滴用の薬がありますが、点滴なので痛みを伴います。
飲み薬や既存の吸入薬は痛みなく使うことが出来ますが、以下の特徴があります。
- タミフルは5日間(10回)継続する薬で手間があり、粉薬は苦みがあり吐いてしまうこともある
- リレンザも5日間(10回)継続する薬で、こどもや高齢者を中心に上手く吸えないことがある
- イナビル吸入粉末剤は1度に4回吸入すれば終わる治療だが、こどもや高齢者を中心に上手く吸えないことがある
- ゾフルーザは1回飲むだけで治療は終わるが、耐性化の懸念もありデータが少なく、粉砕したり割ると苦味が強い
既存の吸入剤は、肺活量がなかったり、しっかりと吸入動作が行えないような人には使えない薬でした。
イナビル吸入懸濁用は、こどもや高齢者、そして肺機能が弱い人には使いやすい薬となる可能性があります。
イナビル吸入懸濁用の大きなデメリットとしては、吸入にネブライザーという機械が必要なことです。
基本的には、病院内で吸入するケースがほとんどでしょう。
ジェット式(コンプレッサー式)のネブライザーが適合しており、オムロンのNE-C28.29.30やミリコンキューブなどが推奨されています。
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病院の立場で考えると、以下の点はデメリットになると思います。
- インフルエンザの患者さんが院内にいる時間が伸びる
- ネブライザーがないと使用できず、同時に治療できる人数にも制限がある
- 生理食塩水や注射針などのコストがかかる
薬の選択肢の少ない、小さいお子さんの治療にはメリットもありますが、小児科学会の2019/2020 シーズンのインフルエンザ治療指針 でも、判断が保留されていますし、使用は限定的だと考えています。
イナビルは日本でしか使われていない薬です
イナビルは日本でこそ知名度がありますが、海外では承認されていません。
海外でも承認のための動きはありましたが、プラセボ(偽薬)と比較したところ、症状が改善するまでの期間に有意差がない結果となり、開発が中止になっています。
では、なぜ日本でイナビルが承認されているのか?という疑問が出てくると思います。
2008年11月~2009年3月の期間に、日本、台湾、韓国、香港で行った臨床試験があり、この時はイナビルはオセルタミビル(タミフル)に対して、非劣勢(劣っていない)とされるデータを示しています。
ただし、この臨床試験が行われていた期間に流行ったインフルエンザは、オセルタミビルに耐性のあるウイルスが三分の二程度だったようです。
つまり、オセルタミビルに耐性のあるインフルエンザが三分の二程度あったとされる環境下において、イナビルはオセルタミビルより効果が劣っていないと示せた。とも言えます。
捉え方は人それぞれだと思いますが、個人的には、積極的にイナビルを使う理由はあまり多くないと考えています。
イナビル吸入粉末剤を投薬したことは何度もありますが、吸入後1日程度で熱が下がる印象はあります(個人の感想です)。
ただし、「イナビルが効いたから」熱が下がったのか、「インフルエンザのピークを超えたため」熱が下がったのかはわかりません。
私個人としても、イナビル吸入粉末剤を2回ほど使ったことがあります。
早く治ったかどうかはやはり判断できませんが、咳き込みやすいのはデメリットと感じます。
薬局で患者さんにイナビルを吸ってもらうこともありますが、吸入したことで咳き込んでしまう人はとても多いです。
イナビル吸入懸濁用160mgセットについて:まとめ
エビデンス(根拠)を見ると、イナビルは効果がはっきりしているとは言い難い薬なので、他の選択肢で対応できるのであれば、あえて選ぶ理由は少ないと考えています。
しかし、現状の選択肢では粉薬は苦いものしかありませんし、未就学児には適切な吸入も難しいです。
タミフルが苦くて吐いてしまう1歳のお子さんにどうやって薬を飲ませるのか、お母さんと何度も電話で相談したこともあります。
どうしてもタミフルや粉砕したゾフルーザなどの苦い薬を飲めず、粉末の吸入もできないお子さんに、選択肢が増えるのであれば嬉しいです。
現状のインフルエンザ治療薬が上手く使えず困っている人に対して、新しい選択肢となる薬になることを期待しています。
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