チラーヂンSを飲み続けていても、なかなか数値が安定しないことがあります。
安定しない要因の一つに「飲むタイミング」もあるのではないかと思います。
チラーヂンS散を続けているお子さんに、飲むタイミングの指導をした結果、(偶然の可能性もありますが)検査結果が安定してきたということも経験しました。
チラーヂンSの飲み方の注意点について紹介します。
子どもの甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモンが欠乏している状態です。
甲状腺機能が低下していると、乳児の場合は哺乳不良や発育不全、幼児期からは発育不全や思春期遅発などにつながることもあります。
先天性、後天性どちらの可能性もありますが、甲状腺機能の検査により診断されます。
治療は不足している甲状腺ホルモンを検査結果を確認しながら量を調節しつつ補充していきます。
甲状腺ホルモン剤には乾燥甲状腺、トリヨードサイロニン(T3 製剤)、L-サイロキシン(T4 製剤)の 3 種類がありますが、T4製剤が第一選択薬として使われます。
T4製剤の特徴として、効力が安定していること、1日1回の投与で濃度が安定することなどが挙げられます。
代表的なT4製剤として「チラーヂンS」があります。
チラーヂンSの種類【チラーヂンS散は無味】
まず、「チラーヂン」と「チラーヂンS」は違うものだということは知っておきましょう。
チラーヂンは天然の甲状腺ホルモンなので、濃度が安定していません。
対して、「チラーヂンS」は合成された甲状腺ホルモンなので、濃度が安定しています。
チラーヂンSには以下の種類があります。
- チラーヂンS錠12.5μg
- チラーヂンS錠25μg
- チラーヂンS錠50μg
- チラーヂンS錠75μg
- チラーヂンS錠100μg
- チラーヂンS散0.01%
子どもに使われるのはチラーヂンS散が多いですが、錠剤が使われることもあります。
※海外には液体の製剤もあるようです。
錠剤の半錠や粉砕が行われることもありますが、含量低下などの恐れもあります。
チラーヂンSを乳幼児に使用する場合は、1 回 10μg/kgを1日1回投与が基本ですが、検査結果によって上下することも珍しくありません。
少量から始め、検査結果を見ながら少しづつ増量していくことが多いです。
なお、チラーヂンS散はほぼ無味です。
そのままでも飲みにくくはないと思いますが、飲食物と混ぜるのは注意が必要です。
チラーヂンSの効果に影響を与えるもの【コーヒーや大豆製品に特に注意】
チラーヂンSは長期続けることも多い薬ですが、中にはなかなか数値が安定しない方もおられます。
中には、「薬を飲む時間が一定でない」というケースも散見します。
たしかにチラーヂンSは1日1回で血中濃度も安定します。
飲み忘れた場合は「当日中であれば思い出した時に飲んで良い」と言われる薬です。
一方で、チラーヂンSの吸収に影響を与える因子は多くあります。
また、チラーヂンSは毎日の服用量がごく少量(μg単位)なので、わずかな相互作用でも影響が大きくなることが考えられます。
そのため、チラーヂンSの効果を安定させるためには、色々注意すべきことがあります。
その一つに食前/食後による影響があります。
食後ではなく、空腹時に服用したほうが、安定した効果を得られます。
参考:Serum thyrotropin levels following levothyroxine administration at breakfast.
また、吸収への影響が大きいものとして以下のものが挙げられています。
- 胃腸障害による吸収低下
- 大豆とコーヒーは吸収低下の影響が大きい
- 食物繊維の影響はまだ完全にはわかっていない
- コレスチラミン、コレセベラム、ランタン、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸鉄、シプロフロキサシン、水酸化アルミニウム、セベラマー、またはプロトンポンプ阻害剤と併用投与した場合は有意に吸収が低下する
参考:Factors Affecting Gastrointestinal Absorption of Levothyroxine: A Review.
カルシウム、鉄分、亜鉛、アルミニウムなどもチラーヂンSの吸収を阻害しますが、通常の食事にも何かしら含まれています。
また、医療用の薬だけでなく、市販の痛み止め・胃薬・便秘薬やサプリメントの一部など、多くのものが吸収に影響を与える可能性があります。
食物繊維に関しても、吸収を低下させるという報告もあるため、避けておいたほうが良いでしょう。
なお、添付文書上の併用注意薬は以下の通りです。
クマリン系抗凝血剤(ワルファリンカリウム等)
交感神経刺激剤(アドレナリン、ノルアドレナリン、エフェドリン・メチルエフェドリン含有製剤)
強心配糖体製剤(ジゴキシン、ジギトキシン等)
血糖降下剤(インスリン製剤、スルフォニル尿素系製剤等)
経口エストロゲン製剤(結合型エストロゲン、エストラジオール、エストリオール等)
コレスチラミン、コレスチミド、鉄剤、アルミニウム含有制酸剤、炭酸カルシウム、炭酸ランタン水和物、セベラマー塩酸塩、ポリスチレンスルホン酸カルシウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム
フェニトイン製剤、カルバマゼピン、フェノバルビタール
アミオダロン
このように、多くのものがチラーヂンSの吸収に影響を与えますが、全てを避けるのは現実的ではありません。
チラーヂンSの効果を安定させる飲み方
一番シンプルな方法は、影響を与えるものとチラーヂンSの投与時間を空けることです。
チラーヂンSを空腹時に飲み、それから30分は水以外の飲食をしないことで、ある程度影響を避けることができます。
具体的には、朝食の30分以上前にチラーヂンを飲むことが一番吸収への影響が少ないでしょう。
それ以外の時間に飲む場合は、前回の食事からできるだけ時間を空け、かつ次の食事まで30分以上時間が空いているのが理想的です。
しかし、昼や夕はバタバタして飲み忘れることも多くなりそうなので、「朝起きてすぐに飲む」がわかりやすいと思います。
「朝食前に飲む」のを基本にし、忘れたら昼食前か夕食前に飲むのが良いのでないかと思います。
なお、成人の報告では、朝の空腹時よりも寝る前のほうがコントロールが良いというデータもあります。
参考:Effects of evening vs morning levothyroxine intake: a randomized double-blind crossover trial.
ただし、子どもは夕食から寝る前までの時間が短いこと、寝落ちが多いことなどもあり、朝起きてすぐがベストではないかと思います。
また、出来るだけ水で飲みましょう。
子どもに薬を飲ませる時に、いつも水以外に混ぜているというケースもあります。
問題ない場合も多いですが、チラーヂンSに関しては、牛乳・ジュース・ヨーグルトなど多くの飲食物はすべて影響があるものが多いです。
まとめて2日分飲むなどは、絶対にやめましょう。
チラーヂンSは足りていない甲状腺ホルモンを補充しているので、適量であれば副作用が起きることは考えにくいです。
飲まないことのほうが体調に悪い影響が出ると言えます。
しかし、過剰に飲めば当然副作用が出る可能性は上がります。
2日分まとめて飲むのはNGですし、飲んだかどうかわからなくならないような工夫は大切です。
そして最後に絶対に注意して欲しいことがあります。
チラーヂンSの効果を安定させるためには、毎日朝食の30分前に飲むことが良いと言えます。
しかし、ずっと朝食後に飲んでいた人が、急に朝食前に飲むタイミングを変えると、吸収が良くなり検査に影響を与えることもあります。
飲むタイミングを変える場合は、主治医と相談の上が安心です。
「食前食後バラバラ」や「昼夜問わず」飲んでいる方は、まず決まった時間に飲んでみましょう。
少し甲状腺の数値が安定するのではないかと思います。