「この薬を飲んでいる間は、グレープフルーツ(ジュース)を食べない(飲まない)ように」このように言われたことはありませんか?
グレープフルーツを含む柑橘系の果物の一部は、薬の吸収に大きく影響を与えることもあります。
- グレープフルーツと薬の飲み合わせが悪い理由
- グレープフルーツと飲みあわせの悪い薬
- グレープフルーツ以外の柑橘系は大丈夫なのか
- グレープフルーツが薬に影響を与える期間
上記の内容をまとめていきます。
グレープフルーツと薬の飲み合わせが悪い理由は?
まだまだ解明しきれていませんが、グレープフルーツジュースが薬の吸収に影響を与えるのには、いくつも理由があります。
主なものは以下の3つです。
- P糖タンパク質の阻害や誘導
- CYP3A4を阻害
- OATPsを阻害
順番に説明していきます。
グレープフルーツはP糖タンパク質の阻害や誘導に関わる
まずは、P糖タンパク質に与える影響についてです。
P糖タンパク質とは、消化管における薬の吸収に関わる酵素の一つです。
中性・塩基性薬物を細胞内から細胞外へ排出する働きがあります。
- P糖タンパク質を阻害→薬の吸収を邪魔する
- P糖タンパク質を誘導→薬の吸収を促進する
簡単にまとめると上記のようになります。
グレープフルーツジュースはこのP糖タンパク質を阻害するという報告と、誘導するという報告の両方があります。
この時点で、どう対処すれば良いのかよくわからなくなりますよね。。
P糖タンパクの基質となり得る薬は、全て影響を与える可能性があると考えて下さい。
グレープフルーツはCYP3A4を阻害する
CYP3A4とは、肝薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP450)の一つで、体内に入った薬の代謝に大きく影響を与える酵素です。
CYP450には50もの種類があるが、その中でもCYP3A4の影響が一番大きいと言われます。
そのため、「CYP3A4に影響を与える≒多くの薬に影響を与える」となります。
CYP3A4は薬の代謝に関わるため、CYP3A4を阻害することで薬が通常より体に残りやすくなる可能性があります。
ただし、一度代謝を受けることによって薬効を出す薬(プロドラックと言います)もあるので、薬がなかなか効かなくなる可能性もあると言えます。
これも難しい話ですよね。。
グレープフルーツはOATPsを阻害する
OATPsとは、比較的脂溶性の高い陰イオン性薬物の細胞内への取り込みを行っています。
消化管においては、薬を吸収するように働いています。
そのため、OATPsが阻害されると薬の消化管吸収を阻害→つまり薬が体に吸収されるのを邪魔するので、薬の効果が落ちます。
OATPsはグレープフルーツだけでなく、りんごジュースやオレンジジュースによっても阻害されます。
OATPsに関わる代表的な薬「フェキソフェナジン」については>>>アレグラ(フェキソフェナジン)はジュースとの飲み合わせに注意でも触れています。
以上の3点に関しては影響を与えるものと考えておきましょう。
どれか一つだけ影響を受けるわけではなく、複数の影響をうけることも珍しくありません。
特に、P糖タンパク質とCYP3A4は、両方の影響を受ける薬がとても多いです。
グレープフルーツと飲みあわせの悪い薬一覧(一部抜粋)
ごく一部ですが、影響を受けやすい薬を抜粋しているので、参考程度に使って下さい。
この一覧にある薬全てに大きな影響が出るわけではありません。
個々の患者さんに対してどれぐらいの影響が出そうか?を検討するのは大変むずかしいことだと感じます。
P-gpの基質となり得る薬剤(ごく一部抜粋)
- グリベンクラミド、グリメピリド、ロサルタン、βブロッカー、プロパノフェン、ピルシカイニド、アミオダロン、Ca拮抗薬、テルミサルタン、オルメサルタン、ドキサゾシン、アリスキレン脂溶性スタチン系PPI、ラニチジン、シメチジン、ロラタジン、フェキソフェナジン、セチリジン、マクロライド系(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)、キノロン系、イミダゾール系、セファロスポリン系、アシクロビル、イトラコナゾール、オランザピン、3環系抗うつ薬、ミアンセリン、リスペリドン、SSRI、カルバマゼピン、メトクロプラミド、スルピリド、ラロキシフェン、抗HCV薬、パクリタキセル、フェニトイン、シクロスポリン、分子標的治療薬一部、抗がん剤一部、ミラベグロン、HIVプロテアーゼ阻害薬、FXa阻害薬、トルバブタン、インダカロール、ナルフラフィン、シロドシン、ドンペリドン、ミダゾラム、オピオイド系鎮痛薬、ダビガトラン
OATPsによって影響を受ける薬
フェキソフェナジン AUC、Cmaxがいずれも60~70%低下 セリプロロール グレープフルーツジュースとオレンジジュースで、AUC、Cmaxとも80%以上低下 アテノロール グレープフルーツジュースで、AUC40%、Cmax49%低下
CYP3A4阻害薬(ごく一部抜粋)
- ニフェジピン、ニソルジピン、フェロジピン、マニジピン、ニカルジピン、アゼルニジピン、シンバスタチン、アトルバスタチン、シロスタゾール、トルバプタン、トリアゾラム、クエチアピン、ロラタジン、エレトリプタン、タクロリムス、イマチニブ、ゲフィチニブ、ラパチニブ、硫酸キニジンなど
これでもかなり絞って作成しています。
実際にはかなり多くの薬に影響を与える可能性があります。
とはいえ、多くの薬の効果に大きな影響を与えるほどか?と問われると何とも答えれないところです。
グレープフルーツの量と、薬の種類などによって変わってきます。
グレープフルーツ以外の(みかんなどの)柑橘系は大丈夫?注意すべき柑橘一覧
「グレープフルーツ」と言い続けてきていますが、グレープフルーツ以外の柑橘系は全く問題ないのでしょうか?
グレープフルーツが薬に影響を与えるのは、フラノクマリン類のベルガモチンやジヒドロベルガモチン(DHB)という成分が原因と言われています。
他の柑橘類に含まれるジヒドロベルガモチン(DHB)を調べた報告がありましたので紹介します。
柑橘類に含まれるフラノクマリン類のDHB 換算量(μg/mL)
柑橘名 果汁 果皮 グレープフルーツ 13 3600 スウィーティー 17.5 2400 メロゴールド 12.5 3400 バンペイユ 12.5 75 レッドポメロ 6.4 240 ダイダイ 3.2 72 ブンタン 2.25 660 ハッサク 0.92 20 サワーポメロ 1 1000 メキシカンライム 0.96 35 甘夏ミカン 0.6 104 パール柑 0.9 20 サンポウカン 0.4 40 レモン 0.05 180 日向夏 0.12 28.5 ネーブルオレンジ 0.05 0.24 スウィートオレンジ 0.01 16 温州みかん 検出せず 検出せず ポンカン 検出せず 0.08 イヨカン 検出せず 0.2 デコポン 検出せず 検出せず ゆず 0.01 0.4 カボス 0.01 1.44 スダチ 検出せず 0.14 キンカン 検出せず 0.02
フラノクマリン類は果肉より果皮に多く含まれています。
フルーツジュースには皮ごと絞っているものもあるので、どれぐらいフラノクマリン類が入っているのかもわかりません。
グレープフルーツよりも、グレープフルーツジュースに注意するように言われことがあるのはそのためでしょう。
グレープフルーツ以外に注意すべき柑橘一覧
上の表を参考にするとしても、どこまでなら確実に大丈夫という線引きは難しいです。
表の温州みかんから下の部分は大丈夫だと考えても良さそうです。
少なくとも、グレープフルーツジュースは避けたほうが無難だと考えます。
自己判断ですが、以下の柑橘には注意をした方がよいと考えます。
注意すべき柑橘一覧
グレープフルーツ、スウィーティー、メロゴールド、バンペイユ(晩白柚)、レッドポメロ、ダイダイ、ブンタン、サワーポメロ
影響が軽微な薬の場合、多少飲むぐらいならほとんど影響はないと思います。
ただし、影響が大きく出る薬を服用中の方は、絶対に避けていただきたいです。
グレープフルーツが薬に影響を与える期間は?副作用が続く可能性あり
「グレープフルーツに注意しないといけないのはわかったけど、どれぐらい気にしないといけないの?」
グレープフルーツジュースの影響は数時間などの短い時間ではなく、数日間続く可能性があります。
以下の報告では、ニソルジピンとグレープフルーツジュースの相互作用を調べています。
グレープフルーツジュースの効果は時間依存的に減少し、摂取後少なくとも3日間持続しています。
ニソルジピン(バイミカード)は、Ca拮抗薬の中でも、グレープフルーツジュースとの影響が出やすいと言われている薬ですが、それでも3日間も影響が出ているのは驚きです。
他にも、フェロジピン(ムノバール)やマニジピン(カルスロット)は影響が大きそうです。
これらの薬は効果が強く出てしまい、結果として副作用もかなり強く出てしまう可能性もあります。
良く使われているアムロジピンなどは比較的影響が少なそうですが、気にせず飲んでいいとは思いません。
グレープフルーツと薬の飲みあわせについて【私の結論】
影響を受ける可能性がある薬を飲んでいる方には、避けるように伝えたほうが無難だと考えています。
ここまでは、グレープフルーツと薬の相互作用について記載してきました。
実際に判断するときには薬と薬の相互作用など他にも考慮しないといけないものがあります。
同じ酵素で代謝される薬が複数ある場合、薬同士の相互作用も考えなければなりません。
その上でグレープフルーツの影響を推察するのはかなり大変です。
CYP3A4の働きにも個人差があることを考えると、もはや無理としか考えられないのは私だけでしょうか?
そのため、私の結論は「極力避ける」です。
実際には、患者さんに合わせて少しニュアンスを変えています。
ニソルジピン一種類だけ飲んでいる患者さんには、「絶対に避けて下さい」と伝えるでしょう。
対して、アムロジピン一種類だけ飲んでいる患者さんには、「極力飲まないようにしましょう。飲んでしまっても影響は少ないと思いますが、大量や繰り返し飲まないように」と伝えます。
適切な注意喚起はしっかりとしつつも、患者さんのQOLを下げないためにも、制限を最小限に出来るようにはしたいと考えています。
グレープフルーツに限りませんが、嗜好品がある方の場合、できるだけそれを制限しないように薬を変えれるように提案したいですね。