小児薬用量の考え方と、小児と大人のADMEの違いについて【基本的な内容のみです】

小児に対して薬を使う場合は、大人と同じように考えることは出来ません。

「大人の半分ぐらい」や、「体重換算で考えれば問題ない」と単純には考えれるわけではありません。

 

小児と大人の薬の効き方の違いについての基本的な点についてまとめます。

 

とりあえず知っておいてもらいたい程度の内容なので、NICUなどで勤務される専門の方にとっては何も得られるものは無いと思います。
小児の薬物治療についての基本的な考えが知りたい方向けです。

薬物動態の基本:ADME(吸収・分布・代謝・排泄)

ほとんどの薬は体内に入ってから、ADME(吸収・分布・代謝・排泄)の経過を通ります。

【ADME】のA:吸収

ほとんどの薬はまず体内に吸収されます。

吸収の影響を受けないものの例として、静脈注射の場合は直接血管に投与するため、吸収の過程を飛ばすことが出来ます。
他にも吸収されないことで効果を出す薬もあります。

【ADME】のD:分布

薬が吸収されたとしても、目的の場所に到達出来なければ期待していた効果は出ません。

塗り薬などは直接目的の部位に使えるのでわかりやすいですが、飲み薬はそう簡単ではありません。

 

薬の多くは血液中ではタンパクと結合しているため、タンパクの濃度の影響を受けます。

また、体内水分量の違いで、薬が分布する容積が変わるので薬の効き方が変わります。

【ADME】のM:代謝

薬は身体にとって異物のため、無効化するために酵素などによって変化します。
その過程を代謝と言います。

一部、代謝されることで効果を発現する薬(プロドラッグ)もあります。

【ADME】のE:排泄

体内に入ってきたものを外に出すことが排泄です。

基本的には、食べ物と同じで尿や便の一部として出てきます。
薬の多くは最終的に腎臓から尿とともに出てきます。

 

 

ここまでが大人の場合に考えるべき基本的な考え方になりますが、小児は大人とは違うことも考慮しなければなりません。

続いて、小児で考慮すべき事をまとめていきます。

小児のADMEと小児薬用量の考え方

小児の場合は、ADME(吸収・分布・代謝・排泄)が大人と同じとは限りませんし、年齢によって少しづつ違いがあります。

そのため、大人の半分の体重だから薬の量も半分というような単純計算では不十分です。

【小児のADME】のA:吸収

小児の胃内pHが大人と同じぐらいになるのは3歳ぐらいと言われています。
新生児は胃酸分泌量が少ないので、酸性薬物の吸収は低下し、塩基性薬物の吸収は増加します。

 

胃腸の動きも遅いので、薬の吸収に影響が出ることもあります。

胆汁酸塩の形成も不十分で、親油性の薬は吸収が低下します。

 

皮膚が薄いなどの理由で、皮膚からの薬の吸収も高くなることもあります。
小児に使うステロイドを少し弱めなものにすることは、ご存知の方も多いでしょう。

【小児のADME】のD:分布

体内水分の割合は加齢とともに減っていきます。

新生児は体重の8割が水分ですが、成人では6割ぐらいまで下がります。

小さい小児は体内水分割合が高いため、水溶性の薬は目的の場所へ届きにくくなるため、投与量を増やす必要があります。
また、脂肪の割合が低いので、脂溶性の薬は投与量を減らす必要があります。

 

新生児ではタンパク濃度が低いので遊離薬物濃度が上がりやすくなります。
タンパク結合率が高い薬の場合、投与量を減らすなどの対応が必要になることもあります。

【小児のADME】のM:代謝

薬物代謝酵素の働きも成長によって変化します。

薬物代謝酵素としてはCYPが有名ですが、CYPも分子種によって発現時期が異なります。
CYP1A2は4~5ヵ月で成人値になりますが、CYP2D6は10歳ごろまでかかります。

代謝酵素発現の変化
CYP1A2出生時には活性がほとんどないが、生後1~3ヶ月から発現がはじまり、4~5ヵ月に成人値となる
CYP2C9出生時には活性が低いが、生後急速に活性は増加し、生後5ヵ月ごろまでに半数の小児でほぼ成人値となる
CYP2C19出生時には活性が低いが、生後5ヵ月以上かけてゆるやかに発現量が増加する
CYP2D6出生時にはほとんど活性がなく、生後2週間までは低いが、3週目以降は遺伝子型に応じて活性が発達し遺伝多型による活性の差異が明瞭となる。10歳までに成人値に達する。
CYP3A4出生時には発現量が少ないが、生後1~2年かけてゆっくり成人値まで増加する
CYP3A7胎生早期から発現するが、生後まもなく発現が減少し、生後1年までにほとんど消失する。

表の参考元:医学のあゆみ

【小児のADME】のE:排泄

腎血流量は1歳、糸球体濾過量は生後半年までに成人程度になるが、生後間もない場合は1/10程度の時期もあります。
体内からの排泄に時間がかかることは考慮に入れたほうが良いでしょう。

 

 

このように、一口に小児の薬と言っても、月齢や年齢に応じて色々な考慮をした上で薬の量を調節する必要があります。

私自身が日常的にこのような事を考慮し、医師にフィードバックすることは滅多にありませんが、一部の薬に関しては考慮したほうが良いかも知れません。