【その抗生物質、エンピリック治療?】処方せんだけで医師の意図は理解できません

薬局においては、得られる情報の少なさから処方が適切なのかどうかの判断が難しいことは少なくありません。

「医師の処方なんだから間違いない」という意見をいただくこともありますが、現実には医師の処方が間違っていることに遭遇することはあります。

 

薬局で質問されることに疑問を感じていても、是非答えてもらえればと思います。

薬局での質問には意味があります

先程、医師の間違いと言いましたが、そのほとんどは「とても単純なミス」です。

しかし、単純なミスの中にも、「粉薬の0.1gと0.01gを間違えるなど薬の量が一桁違う」場合などもあり、単純だからと言って見逃すわけにはいけません。

医師も人間である以上、100%ミスをしないなんてことはありません。

 

ちなみに、同じ薬を同じ人に使う場合でも、どんな病気なのかで量が変わることも珍しくありません。

例えば、クラリスロマイシンを抗菌効果を目的で使うのか、抗炎症効果を目的で使うのかで、量や回数も変わってきます。

 

処方は診断の結果なので、診断が分からなければ処方が適切かどうかの判断は難しいです。

診断は医師が行いますが、様々な理由により、処方箋に診断名が書かれていることはまずありません。

薬局薬剤師が医師の診断を把握するために参考になるのが、患者さんからの話です。

 

つまり、「処方の内容」+「医師が患者さんに伝えた内容」に基づいて処方にミスが無いのかなどを判断しているわけです。

 

時には探偵のように「この薬の組み合わせは〇〇!」とか考えながら仕事をしているわけですが、「真実はいつもひとつ!」と言えるようなケースばかりではありません。

むしろ、「せやかて先生!」と言いたくなるケースが多いかもしれません。

 

その一つとして、「風邪に抗生物質の処方」があります。

医療情報をネットで検索される皆さんには常識だと思いますが、風邪に抗生物質は効果ありません。

ほとんどの場合、副作用リスクを上げるだけです。

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とはいえ、現実では「風邪と言われた」患者さんに抗生物質が処方されているケースに遭遇することはあります。
コ○ンくんが事件に遭遇するよりも高頻度だと思います。

私はそういうケースではいつも迷いながらの説明になっていますが、医師は「エンピリック治療」として考えているかも知れません。

エンピリック治療とは

エンピリック治療(経験的治療、エンピリックセラピー、empiric therapy)は、原因菌が特定できなかったり特定に時間がかかる場合で、症状が重い時などに、速やかに抗生物質などで治療を始めることです。

肺炎や尿路感染症などのエンピリック治療に遭遇することが多い印象です。

 

エンピリック治療の場合、何が感染したのかが確定していないため、幅広い菌に効果のある抗生物質から使用を始めます。

その後、原因が分かってから、狭い範囲に効果のある抗生物質に切り替えていくこと(ディ・エスカレーション)で、副作用や耐性菌発生などのリスクを減らしていきます。

 

最初から広い範囲に効く抗生物質を選ぶことは、耐性菌を生む原因にもなりかねません。

そのため、原因菌が分かっている場合は、その菌を含めたできるだけ狭い範囲に効く抗生物質を選択することが耐性菌などの観点からは望ましいことです。

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エンピリック治療がどの程度行われているかは、医師や流行っている感染症の種類などに左右されると思いますが、薬局においてはエンピリック治療だとすれば納得できるケースが少なからずあると感じています。

「風邪に抗生物質の多くはエンピリック治療」という予想

疑われる病気や現在の状態次第で、エンピリック治療が選択されることがあっても、処方せんにはその事情は書かれていません。

薬局薬剤師がその情報を得るためには、病院に問い合わせるか、患者さんからの話以外にありません。

 

しかし、現実として「医師から風邪と言われた患者さんに抗生物質が処方」されているケースはあります。

私に思いつくのは、この二択です。

  • 処方した医師が風邪に抗生物質が効くと信じている
  • 実は風邪以外の病気を疑っている

 

医師の中にもごくごく一部ですが残念な方もいますので、風邪に抗生物質が効くと言って譲らない医師が世の中に1人ぐらいいてもおかしくは無いと思っています。

たしかに、風邪などで抗生物質を処方すると4000人に投与して1人の重症化を予防するという報告があります。

ただし、医療費は増えますし、10%(400人)程度には下痢などの副作用が起きてもおかしくありません。

そのため、「重症化の予防」という観点からも、重症化リスクがとても大きい場合を除き、積極的に風邪に抗生物質を使用する理由はほとんどないでしょう。

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そのため、風邪に抗生物質が処方されているケースの多くは、風邪以外の病気を疑っていると予想しています。

つまり、「その疑いについて説明していない」か「説明をしたけど伝わっていない」かのどちらかではないでしょうか。

結果「風邪と診断された患者さんに抗生物質が処方」されているというのが私の考えです。

 

「説明していない」ケースでは、患者さんに不安を与えたくないという思いがあるのかもしれません。

しかし、「風邪に抗生物質は効かない」ということは、少しづつではありますが知識として広まってきていると思います。

薬局で「この抗生物質は本当に必要ですか?」と聞かれることも少なくありません。

中途半端な説明になってしまうと、「風邪に抗生物質を出す医師」として患者さんからの信頼を失う要因になりかねません。

 

薬局でもたまにありますが、「言ったか言わないか」ではなく、「伝わったか伝わっていないか」が大切だと改めて感じます。

そして患者さんにうまく伝わっていれば、処方箋を応需した薬剤師にも伝わり、適切な指導につながると考えています。

もしくは処方箋に肺炎疑いなど記載してあると薬局でもうまくフォローが出来ると思います。

よりよい医薬分業のためには、もう少し情報が必要なのではないかと思うことが少なくありません。

結論:薬局薬剤師をもっと有効に使いましょう

結局「風邪と言われて抗生物質処方されたけどこれ要るの?」と聞かれて薬局薬剤師は困っているということです。

診断がわからないので、必要性がわからないこともあります。

薬局薬剤師の皆様におかれましては、「もしかしたらエンピリック治療かも?」と心の中で考えることで、解決にはなりませんが、少しだけ気分を落ち着けるかも知れませんね。

 

そして、患者の皆様には、快く質問に答えていただき、不要なリスクにさらされないように賢く薬剤師を使ってもらえればと思います。

時に「プライバシーへの配慮が足りない」などが問題になることもありますが、ほとんどの薬剤師は配慮していると思います。

 

もし、配慮のない薬剤師に対応された場合、薬局の受付などで「あの薬剤師には対応してほしくない」など言っても良いです。薬局を変えてしまってもいいでしょう。

かかっている病院の近くの薬局ならではのメリットもわずかにあるかもしれませんが、我慢するほどではありません。

 

薬局薬剤師から処方せんから薬の処方理由を推測するという探偵業務を無くしたら、もっと薬局薬剤師は出来ることが増えるのではないかなと考えてしまいます。